誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

世帯分離で介護費用は下がるか——親本人が住民税非課税なら、同居して課税されている子が住民票の世帯を分けることで、親の介護保険料・高額介護サービス費の上限・特養の食費居住費が「世帯非課税」の扱いになる。ただし夫婦の分離を認めない自治体があり、配偶者は別世帯でも判定され、国保・後期では高額療養費の合算を失う。効くもの・効かないもの・逆効果を一覧で

親と同居している方から、よく聞かれます。「世帯分離をすると介護のお金が安くなると聞いたが、本当か」。答えは半分本当です。介護と医療の制度には「世帯」を単位に判定するものが多く、親本人が住民税非課税で、同居の子が課税されている場合、親と子の世帯を分けると、親の側は親だけの収入で判定されます。親自身が課税されているなら、世帯を分けてもこの効果はほぼありません。さらに、効かない制度、逆に不利になる制度、そもそも分けられない場合があります。この記事は、その全部を一覧にしたものです。

世帯分離とは——住民票の世帯を分ける届出

世帯分離は、同じ住所に住んだまま、住民票の「世帯」を2つに分ける届出です(世帯変更届)。市区町村の窓口で、本人確認書類と、国保や介護保険の証を持って手続きします。

ここで大事なのは、世帯は「居住と生計を共にする集まり」で、届出には生計が別という実態が要ることです。自治体の案内には「実態を伴わない届出は認められません」と書かれ、北九州市のように「夫婦が同じ住所のままで別世帯になることは原則として認められません」と明記している自治体もあります。受理の基準は自治体ごとに違いますが、親と子が財布を分けて暮らしているなら分けられ、同居の夫婦は民法上の扶助義務を理由に世帯分離を認めない自治体もあります。生計が実際に別かどうかは確認されるので、住所地の窓口に聞くのが確実です。

窓口で「介護費用を下げたいので」と言うと断られることがある、という話をよく聞きます。届出の理由は「生計が別だから」であって、制度の損得ではありません。生計が本当に別なら、分けるのは正当な手続きです。

効くもの——「世帯」で判定する3つの制度

① 介護保険料の段階

65歳からの介護保険料は、本人の課税状況と「世帯に課税者がいるか」で段階が決まります。親が非課税でも、同じ世帯の子が住民税を払っていると、親は「世帯非課税」の段階に入れません。文京区の令和8年度で見ると、年金収入120万円超で本人非課税の親は、子と同じ世帯なら第5段階(年73,300円)、世帯を分けると第3段階(50,300円)。年23,000円の差です。年金収入が82万6,500円以下なら第4段階62,400円→第1段階20,900円で、差は年41,500円になります(段階の目安計算)。

② 高額介護サービス費の上限

介護サービスの自己負担の月の上限は、世帯の課税状況で決まります。世帯に課税者がいれば44,400円、世帯全員が非課税なら24,600円(本人の年金収入等が82万6,500円以下なら個人15,000円)。施設に入って毎月上限まで使う人なら、月19,800円、年で約24万円の差です。

③ 特養などの食費・居住費(負担限度額認定)

特養・老健・介護医療院とショートステイの食費・居住費は、「世帯全員が非課税」で預貯金等が基準以下なら、申請で負担限度額まで下がります。国の計算例(要介護5・1割・多床室・30日)で、対象外なら月約109,900円のところ、年金収入等120万円超の第3段階②で約94,600円、82万6,500円超120万円以下の第3段階①で約69,400円。月1万5千〜4万円の差で、①②と合わせると、施設に入った親の負担は世帯分離の有無で月4〜6万円変わることがあります(段階別の額は老人ホームの費用はいくらか)。

ただし、この制度には2つの別の条件があります。次の節で説明します。

効かないもの——世帯を分けても判定に入るもの

配偶者は別世帯でも見られる

負担限度額認定は「世帯全員が非課税」に加えて、世帯を分けている配偶者も非課税であることが条件です。父が施設に入り、母が課税されているなら、母と世帯を分けても対象になりません。介護保険法施行規則は、この配偶者に事実婚のパートナーも含めています。同居夫婦の世帯分離を認めない自治体があることと合わせて、夫婦間では世帯分離は効かないと考えてください。

預貯金の基準

同じ制度には預貯金等の上限があり、単身なら第2段階650万円・第3段階①550万円・第3段階②500万円以下、夫婦なら1,650万円・1,550万円・1,500万円以下(第1段階は1,000万円・2,000万円)。世帯を分けても、親本人の預貯金は見られます。

税金の扶養控除・医療費控除は、住民票と関係ない

「世帯を分けると親を扶養に入れられなくなる」という心配をよく聞きますが、税法の扶養控除・医療費控除の条件は「生計を一にしている」ことで、住民票の世帯が同じかどうかでは判定しません。同居していなくても生活費を送っていれば生計一になりますし、逆に同じ家に住んでいても生計が別なら生計一ではありません。世帯分離は「生計が別」の届出なので、扶養控除を使い続けるなら、実態として生計を一にしているかを税務署の基準で見ることになります。世帯分離をしながら生計一で扶養控除を受けている例は実務上ありますが、二つの制度が別の基準を使っているだけで、矛盾を問われないという保証ではありません。

会社の健康保険の被扶養者

子が会社の健康保険に入っていて親を被扶養者にしている場合、親(直系尊属)は同居が要件ではないので、世帯分離だけを理由に直ちに扶養から外れるわけではありません。ただし「主として被保険者の収入で生計を維持している」こと(年収130万円未満、60歳以上は180万円未満)を引き続き満たす必要があり、別居扱いでは仕送りの額も確認されます。勤務先か健康保険に確認してください。親が75歳になれば後期高齢者医療に移るので、それまでの話です。

逆効果になるもの——合算と保険料

高額療養費・高額介護の世帯合算ができなくなる(国保・後期高齢者医療の場合)

高額療養費は、医療保険上の同じ世帯の人の自己負担を合算できます。国保・後期高齢者医療の「世帯」は住民票の世帯が基本なので、親と子が二人とも国民健康保険で同じ世帯なら合算できますが、世帯を分けると別々に上限を当てることになります。一方、会社の健康保険の被保険者とその被扶養者は、住民票の世帯が別でも同じ医療保険上の世帯なので合算できます。子が会社の健康保険で親が国保なら、もともと保険が違うので合算はできず、この点の損はありません。高額介護サービス費も同様で、世帯を分けると親と子の介護費は合算できなくなります(親だけが介護を使うなら関係ありません)。

国民健康保険料は世帯ごとに別計算

国保の保険料は世帯単位で、均等割の軽減(7割・5割・2割)も世帯主と世帯の加入者の所得で判定します。親と子が同じ国保の世帯なら、子の所得で軽減が外れていた分が、世帯を分けると親の側だけで判定され軽減が効くことがあります。一方、自治体によっては世帯ごとにかかる「平等割」があり、世帯が2つになると2つ分かかります。効き方は自治体の料率と二人の所得しだいなので、国保の窓口で「分けた場合・分けない場合」の試算を頼んでください。

世帯主が変わると届出先が増える

親が世帯主になれば、国保や介護保険の通知は親宛てになり、納付書も親の分は親に届きます。親が管理できないなら、子が代わりに払う段取り(口座振替の名義など)を先に決めておきます。

数字で見る——親が特養に入った場合(文京区・要介護5・多床室の例)

項目子と同じ世帯(子は課税)世帯分離(親は非課税・年金120万円超)差(月)
介護保険料(年額→月換算)第5段階 73,300円(月約6,100円)第3段階 50,300円(月約4,200円)約1,900円
高額介護サービス費の上限44,400円24,600円19,800円
食費・居住費(国の計算例・30日)基準費用額で約73,800円(施設との契約額)第3段階② 約58,500円約15,300円
合計の差月約3万7千円

食費・居住費の差は、国の計算例の食費(基準1,545円→第3段階②1,420円)と多床室の居住費(915円→530円)を30日分で比べたものです。年金収入が82万6,500円超120万円以下なら第3段階①(食費680円・居住費430円)になり、差はさらに広がります。

この試算は「親が非課税・子が課税・親は施設で上限まで介護を使う」という条件です。親が課税なら、世帯分離をしても①介護保険料と③負担限度額認定は原則変わりません。②高額介護サービス費だけは、同じ世帯の65歳以上の人に課税所得380万円以上の人がいると上限が93,000円・140,100円になるため、世帯を分けて44,400円に下がることがあります。介護を在宅で少ししか使っていないなら、②の差は出ません。

やるかどうかの判断——4つの質問

  1. 親は住民税非課税か——課税なら、世帯分離をしても①と③は動きません。②は同じ世帯の65歳以上の人の所得しだいで変わることがあります(非課税ライン判定
  2. 生計は本当に別か——同じ財布なら届出の前提を満たしません。親の年金で親の生活費をまかなっているか、子が親の生活費を出しているか
  3. 親は施設か在宅か、どれだけ介護を使うか——施設に入り上限まで使うほど②③の差が大きい。要支援・要介護1で在宅なら差は小さい
  4. 親と子は同じ国保か——同じ国保なら高額療養費の合算を失う。子が会社の健康保険なら、親が被扶養者でも国保でも、この損はない

最初の3問が「はい」に近ければ、世帯分離で介護費用が下がる可能性があります。ただし4問目が「はい」(親子が同じ国保)なら高額療養費の合算を失うので、その不利益も含めて試算してください。窓口では「世帯分離をしたい」ではなく、「親と生計が別になったので届出をしたい。介護保険料と高額介護サービス費の上限がどう変わるか教えてほしい」と伝えると、話が早く進みます。

今日できること

  1. 親の住民税の通知(6月ごろ)で、課税か非課税かを確かめる
  2. 親の介護保険料の決定通知で、いまの段階と「世帯に課税者がいる」扱いになっているかを見る
  3. 市区町村の介護保険の窓口に、世帯分離した場合の段階・上限・負担限度額認定の見込みを聞く
  4. 親の預貯金(通帳・証券の残高)を一覧にする——負担限度額認定の申請に要る

介護のお金を、順番に

介護費用の全体像は介護にいくらかかるか、施設の食費・居住費の段階別の額は老人ホームの費用はいくらかへ。親の介護保険料の段階は介護保険料の目安計算、非課税かどうかは非課税ライン判定で。事実婚のふたりの世帯の考え方は事実婚と医療・介護のお金に書きました。

「うちはこうだった」という話は、質問・リクエスト箱から教えてください。

このテーマをまとめて読む:老人ホームのまとめ老後資金のまとめ

出典

この記事は、法令・厚生労働省の資料・自治体の案内にもとづく一般的な情報です。世帯分離の届出が受理されるか、介護保険料や国民健康保険料がどう変わるかは、お住まいの市区町村の運用と世帯の実態で決まります。届出の前に、市区町村の住民登録・介護保険・国民健康保険の窓口で、分けた場合と分けない場合の試算をご確認ください。