介護にいくらかかるか——「542万円」を分解すると、自己負担には上限があると分かります
介護に、いくらかかるのか。「500万円以上かかる」という数字をよく見かけます。調査で出ている平均値を組み合わせて単純計算すると、たしかにおよそ542万円になります。ただ、この数字はそのまま受け取らないほうがいいと、私は思っています。
この記事は、その542万円を分解します。分解すると、見え方が変わります。とくに3つめの「自己負担には上限がある」は、知っているかどうかで気持ちがずいぶん変わるところです。
先にお断りします。ここに出てくるのは、生命保険文化センターの調査と、国や市区町村が公表している制度の資料にもとづく平均と仕組みの話で、あなたが将来いくら払うかという話ではありません。体のことは、お医者さんやケアマネジャーにご相談ください。
① 平均でいくら、何年かかっているか
生命保険文化センターが令和6年度に行った調査(過去3年間に介護をした経験がある方への調査)から、3つの数字を並べます。
| 項目 | 平均 | 補足 |
|---|---|---|
| 一時的な費用 | 47万2千円 | 住宅の改造、介護用ベッドの購入など、はじめにまとまって出ていくお金 |
| 月々の費用 | 9万円 | 在宅なら5万3千円、施設なら13万8千円。同じ「平均9万円」でも中身がまったく違う |
| 介護をした期間 | 55.0か月(4年7か月) | 4年を超えた方がおよそ4割。短く終わる方も長く続く方もいる、幅の大きい数字 |
これを単純に足すと、9万円×55か月=495万円、+47万2千円でおよそ542万円。冒頭の数字はこれです。ただし、これは平均どうしを掛け算しただけの、あらい目安です。調査が「一人あたりの平均総額」として公表した数字ではありません。調査の対象は2人以上の世帯で、介護期間の「55か月」には、いま介護をしている最中の方については調査時点までの経過期間が含まれています(介護が終わるまでの期間ではありません)。目安が粗くなる理由は、ここにもあります。
もうひとつ。平均は「まん中」という意味ではありません。在宅と施設では月の費用が2倍以上違い、金額の高い方が平均を引き上げている面もあります。542万円を自分の数字だと思わずに、自分はどちらに近いかで見てください。
② 月9万円の中身——介護保険の自己負担「だけ」ではない
調査の「月9万円」は、介護のために自分の財布から出したお金の合計です。介護保険のサービスを使ったときの自己負担も入っていますが、それだけではなく、保険の対象にならない費用(施設の食費や部屋代、保険外のサービス、おむつ代など)も入っています。「9万円がまるごと介護保険の自己負担」ではないので、ここを取り違えると金額の見当が大きくずれます。
では、そのうち介護保険のサービスの部分はどうなっているのか。ここからが仕組みの話です。
介護保険のサービスなら、原則1割
介護保険の対象になるサービスを使ったとき、自分で払うのは原則1割。残りの9割は介護保険から支払われます。65歳以上の方(第1号被保険者)のうち所得の高い方は、2割または3割になります。判定は上から順に見ます。
| 負担割合 | 条件 |
|---|---|
| 3割 | 本人の合計所得金額が220万円以上、かつ、同じ世帯の65歳以上の方の「年金収入+その他の合計所得金額」が単身340万円以上/2人以上の世帯463万円以上 |
| 2割 | 3割に当てはまらず、本人の合計所得金額が160万円以上、かつ、同上が単身280万円以上/2人以上の世帯346万円以上 |
| 1割 | それ以外の方。40〜64歳の方(第2号被保険者)、住民税非課税の方、生活保護を受けている方も原則1割 |
本人の所得が160万円に届かなければ、世帯の収入が高くても1割のままです。ご自分が何割かは推測しなくても分かります。介護の認定を受けている方には、市区町村から介護保険負担割合証が届きます(適用期間は8月1日から翌年7月31日までで、毎年7月ごろに新しいものが送られてきます)。そこに1割・2割・3割が書いてあります。
居宅サービスには、1か月に使える量の上限がある(区分支給限度基準額)
訪問介護やデイサービスなどの居宅サービス(と一部の地域密着型サービス)には、介護保険で1か月に使える量の上限があり、要介護度が重いほど大きくなります。特養などの施設サービスや、介護付き有料老人ホームの介護(特定施設入居者生活介護)は要介護度ごとの定額のため、この表の上限は適用されません。上限は金額ではなく「単位」で決まっていて、下の金額は1単位を10円として換算した目安です(実際の1単位あたりの単価は地域とサービスの種類で異なります)。
| 要介護度 | 1か月の上限(単位) | 10円換算の目安 |
|---|---|---|
| 要支援1 | 5,032単位 | 50,320円 |
| 要支援2 | 10,531単位 | 105,310円 |
| 要介護1 | 16,765単位 | 167,650円 |
| 要介護2 | 19,705単位 | 197,050円 |
| 要介護3 | 27,048単位 | 270,480円 |
| 要介護4 | 30,938単位 | 309,380円 |
| 要介護5 | 36,217単位 | 362,170円 |
ここで1割と組み合わせます。要介護5の方が対象となるサービスを上限いっぱいの362,170円分まで使ったとして、自己負担が1割なら払うのは36,217円。残りの32万円あまりは介護保険が払っています。ただし、これは対象となるサービスの自己負担だけを見た金額です。食費や部屋代、保険の外のサービスは別に出ていきます。また、上限を超えて使った分には保険がきかず、その部分は全額自己負担になります。サービスの組み方はケアマネジャーが上限を確認しながら調整するので、気になるときは「上限内ですか」と聞いてみてください。
③ 自己負担にも上限がある——高額介護サービス費
ここからが、いちばんお伝えしたい仕組みです。高額介護サービス費という制度があり、1か月の自己負担が決められた上限を超えたとき、超えた分が戻ってきます。医療の高額療養費と考え方は同じです。支給を受けるには、原則として市区町村への申請が必要です(対象者に申請書を送る自治体や、初回の申請後は自動で振り込む自治体もあります。手続きは自治体に確認してください)。上限は所得によって分かれます。
| 区分 | 1か月の上限 |
|---|---|
| 課税所得690万円以上(年収約1,160万円以上) | 140,100円(世帯) |
| 課税所得380万円以上690万円未満 | 93,000円(世帯) |
| 住民税課税世帯・課税所得380万円未満 | 44,400円(世帯) |
| 世帯全員が住民税非課税 | 24,600円(世帯) |
| 上のうち、年金収入+その他の合計所得金額が基準額以下の方など | 15,000円(個人) |
| 生活保護を受けている方 | 15,000円(個人) |
| 15,000円に下げれば生活保護を受けずにすむ場合 | 15,000円(世帯) |
課税所得による区分(上の3段)は、同じ世帯にいる65歳以上の方の課税所得で判定します。「世帯」の上限は、同じ世帯で介護サービスを使った方全員の負担の合計に対する上限、「個人」の上限はご本人の負担に対する上限です。24,600円は世帯、15,000円は個人——この2つを混同しないでください。医療のときと同じで、ここでも住民税が非課税かどうかが大きく効いてきます。
令和8年8月から変わったところ
令和8年8月1日から、利用者負担段階を分ける基準額が80万9千円から82万6,500円に見直されました。「公的年金等の収入金額+その他の合計所得金額」がこの額以下かどうかで、15,000円の区分などに当たるかを判定します。線が上がったぶん、これまでより少し広い範囲の方が下の段に入ります。上限額そのもの(15,000円・24,600円・44,400円など)は変わっていません。
この上限に入らないもの
- 福祉用具の購入費、住宅の改修費
- 施設の居住費・食費、日常生活費
- 区分支給限度基準額を超えて使った分(全額自己負担の部分)
戻ってくるのは、あくまで介護保険サービスの1〜3割負担の部分です。「どれだけ使っても月44,400円まで」とは言えません。
医療と介護を合わせた上限もある
高額医療・高額介護合算療養費という制度もあります。同じ医療保険に入っている世帯単位で、医療で払った分と介護で払った分を、毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間で合算し、基準額を超えた分が戻ります。70歳以上で「一般」の区分(年収約370万円まで)の基準額は年56万円です。こちらも、加入している医療保険(市区町村の国民健康保険・後期高齢者医療など)への申請が必要です。医療と介護が重なった年ほど、この制度が効いてきます。
施設に入ると、話が少し変わる
施設に入った場合、介護サービスの部分の考え方はここまでと同じです。ただし、部屋代にあたる居住費と食費は介護保険の対象外で、上の上限にも入りません。「施設だと月13万8千円」という平均は、介護サービスの自己負担に加えて居住費や食費などが乗るからです。月額の中身を分けて見る方法は、施設の「月額◯万円」の中身にまとめました。
その居住費と食費にも、助けになる仕組みがあります。特定入所者介護サービス費(補足給付)といい、特養・老健・介護医療院(とショートステイ)で、世帯全員(世帯を分けた配偶者を含む)が住民税非課税で、預貯金などの要件を満たすと、居住費と食費の負担が軽くなります。金額は所得の段階や部屋の種類で細かく変わるので、施設を考えるときは市区町村の窓口で確認してください。
その保険料は、誰が払っているか
介護保険が9割を払ってくれるお金のもとは、私たちが払っている保険料です。介護保険料は40歳から負担し、40〜64歳は医療保険料と一緒に、65歳からは市区町村が徴収します(対象の年金が年18万円以上なら原則として年金から天引き、それ未満の方は納付書などで納めます)。65歳以上の保険料は市区町村ごとに違い、介護保険料 目安計算で、課税状況と年金収入から国の標準13段階にあてはめた目安を確かめられます。
今日から確認できること
- 毎年7月ごろに届く介護保険負担割合証で、自分が何割かを知っておく(まだ認定を受けていない方は、上の表で当たりをつける)
- ご自分の世帯が住民税非課税かどうかを確かめる。ここで上限が大きく変わります(住民税非課税ライン 判定)
- 迷ったら地域包括支援センターに聞く。無料で相談できます
介護のお金がこわいのは、金額そのものよりも、いくらになるか分からないからだと思うのです。上限がある、と知っているだけでずいぶん違います。慌てて何かを契約する必要はありません。まず知って、それからゆっくり考えれば間に合います。
ご自身の数字で確かめる
65歳からの介護保険料 目安計算と、上限の分かれ目になる住民税非課税ライン 判定で、ご自身の目安を確かめられます。入力した内容は保存されません。医療と介護の備えを一度に見直すなら医療・介護の備えチェックもどうぞ。
「うちの場合はどうなる?」という疑問があれば、質問・リクエスト箱から教えてください。記事の形でお答えしていきます。
出典
- 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査:一時費用47.2万円・月9.0万円・在宅5.3万円/施設13.8万円・平均55.0か月) (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」(令和7年7月・老健局)(利用者負担2割・3割の所得要件) (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「高額医療・高額介護合算制度」(同じ医療保険の世帯単位・医療保険者への申請) (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省告示「居宅介護サービス費等区分支給限度基準額及び介護予防サービス費等区分支給限度基準額」(要支援1=5,032単位〜要介護5=36,217単位) (2026年9月8日確認)
- 介護サービス情報公表システム(厚生労働省)「サービスにかかる利用料」(高額介護サービス費の上限、高額医療・高額介護合算制度、特養の1か月の自己負担の目安) (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省 介護保険最新情報Vol.1516(令和8年6月25日)「健康保険法施行令等の一部を改正する政令の公布について」(高額介護サービス費の所得区分の基準 80.9万円→82.65万円・令和8年8月1日施行) (2026年9月8日確認)
- 江東区「介護保険負担割合証の交付」(適用期間8月1日〜翌年7月31日・毎年7月上旬ごろに送付)※自治体の例 (2026年9月8日確認)
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」(制度全体の案内ページ) (2026年9月8日確認)