誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

事実婚と医療・介護のお金——分かれ目は「住民票の世帯」と「医療保険の世帯」。同じ世帯なら高額療養費・高額介護サービス費は合算できるが、介護保険料の段階と上限は相手の課税で上がる。施設の食費・居住費の軽減は、別世帯でもパートナーの課税と預貯金で判定されます

年金は法律が事実婚を「配偶者」に含め、相続は含めない。では医療と介護のお金はどうか——答えは「婚姻届ではなく、世帯で決まる」です。ただし「世帯」の意味が制度で違います。介護保険料の段階や高額介護サービス費は住民票の世帯、高額療養費は医療保険上の世帯(国保・後期高齢者医療なら住民票の世帯が基本、会社の健康保険なら被保険者とその被扶養者で、住民票が別でも同じ世帯)が単位です。どちらの世帯も、届出婚でなくても同じにできます。

つまり事実婚のふたりは、住民票を同じ世帯にするか、同じ医療保険に入るかで、医療・介護のお金の景色が変わります。しかも「同じ世帯にすると得」とは限らず、合算で助かる制度と、相手の課税で上がる制度が混ざっています。この記事は、その一覧と、判断の考え方です。施設に入るときの身元引受人や医療の同意の話は事実婚のふたりの施設選びに書いたので、ここはお金に絞ります。

一覧——同じ世帯にすると、何が変わるか

制度判定の単位住民票を同じ世帯にすると事実婚で特に
高額療養費(医療費の月の上限)医療保険上の世帯(国保・後期は住民票の世帯が基本、会社の健康保険は被保険者と被扶養者)○ 同じ医療保険なら、ふたりの自己負担を合算できる(70歳以上は全額が対象)。別々の医療保険なら同居でも合算不可65〜74歳で二人とも国保なら合算可。片方が75歳で後期高齢者医療に移ると、届出婚でも合算不可
高額介護サービス費(介護費の月の上限)住民票の世帯○ 合算できる。ただし上限は世帯の課税状況で決まる(世帯非課税24,600円/課税者がいると44,400円〜)相手が住民税課税なら、ひとりなら24,600円で済んだ上限が44,400円に上がる
高額医療・高額介護合算制度(年間の合計の上限)同じ医療保険の世帯○ 合算できる高額療養費と同じ条件
介護保険料の段階本人の課税+世帯の課税△ 本人が非課税でも、世帯に課税者がいると「世帯非課税」の段階(第1〜3)から外れて上がる相手が課税なら、文京区の例で年50,300円→62,400〜73,300円
介護保険の負担割合(1〜3割)世帯の65歳以上の人の年金収入等△ 2人以上の世帯の基準(2割:346万円以上、3割:463万円以上)を使うが、世帯の65歳以上の人の収入も合計して判定する単身基準(280万円・340万円)より線は上がるが、ふたりの収入を足すので、上がる場合と下がる場合がある
施設の食費・居住費の軽減(負担限度額認定)世帯全員+配偶者(別世帯でも)+預貯金— 同じ世帯でも別世帯でも、パートナーの課税と預貯金が判定に入る介護保険法施行規則が配偶者に事実婚を含めている。預貯金の線は「夫婦」の額(第1段階2,000万円〜第3段階②1,500万円)で見る
75歳からの医療費の割合(1割・2割・3割)世帯内の75歳以上の人△ 2割の線が「年金収入+その他の合計所得」200万円→複数人世帯320万円に二人とも75歳以上で同じ世帯なら、複数人の基準
国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の軽減世帯主と世帯の加入者の所得△ 相手の所得が判定に入る(軽減が外れることがある)相手が世帯主で所得があると、均等割の7割・5割・2割軽減が効かなくなることがある
医療費控除(確定申告)生計を一にする配偶者・親族× 世帯に関係なく合算不可事実婚のパートナーは税法上の配偶者でも親族でもない。それぞれ自分の分だけ
健康保険の被扶養者(会社の健康保険)被保険者と被扶養者○ 内縁の配偶者も被扶養者になれる(年収130万円未満・60歳以上は180万円未満)扶養に入れば保険料なし・高額療養費も同じ保険で合算可

上の表で「○」は合算で助かる制度、「△」は相手の所得や課税で上がることも下がることもある制度、「×」は事実婚では効かないものです。ひとつずつ見ていきます。

高額療養費——「同じ医療保険」が条件

医療費の自己負担には月の上限があり(令和8年8月からの上限額)、同じ医療保険上の世帯に属する人の分は合算できます(国保・後期高齢者医療なら住民票の同じ世帯、会社の健康保険なら被保険者と被扶養者で、別住所でも可)。70歳以上は自己負担の全額が合算の対象です。事実婚のふたりが二人とも65〜74歳で同じ世帯の国民健康保険なら、届出婚と同じように合算できます。

ここで「事実婚だから」ではなく「年齢差で」つまずくことがあります。片方が75歳になると後期高齢者医療制度に移り、もう片方の国保とは別の保険になるので合算できません。これは届出婚でも同じです。片方が会社の健康保険に入っていて、もう片方がその被扶養者なら、同じ保険なので合算できます。健康保険法は被扶養者の配偶者に事実婚を含めています(年金の記事参照)。

高額介護サービス費——合算できるが、上限は「世帯の課税」で決まる

介護サービスの自己負担にも月の上限があり、判定の単位は住民票の世帯です。同じ世帯なら二人の介護費を合算して上限を当てられます。ただし、上限の額そのものが世帯の課税状況で決まることに注意が要ります。

世帯の状況月の上限
生活保護を受けている方個人15,000円
世帯全員が住民税非課税で、本人の年金収入等が82万6,500円以下個人15,000円(世帯24,600円)
世帯全員が住民税非課税世帯24,600円
世帯に住民税課税者がいる(世帯の65歳以上の人の課税所得が380万円未満)世帯44,400円
同(世帯の65歳以上の人に課税所得380万円以上690万円未満の人がいる)世帯93,000円
同(世帯の65歳以上の人に課税所得690万円以上の人がいる)世帯140,100円

93,000円・140,100円の区分は、同じ世帯の65歳以上の人の課税所得で判定します。本人が非課税でも、同じ世帯のパートナーが住民税を払っていれば、上限は少なくとも44,400円になります。パートナーが65歳以上で所得が高ければ、93,000円または140,100円になることもあります。ひとり世帯なら24,600円で済んだ人が、世帯を同じにしたことで上がる。月に約2万円、施設に入って介護サービスを使い続けるなら年に約24万円の差です。反対に、二人とも介護サービスを使っていて、二人とも非課税なら、合算して24,600円で収まるので助かります。どちらの効果が大きいかは、ふたりの課税状況と、どちらがどれだけ介護を使うかで変わります

介護保険料の段階——「世帯非課税」から外れると上がる

65歳からの介護保険料は、本人の課税状況と世帯の課税状況で段階が決まります(段階の目安計算)。本人が非課税でも、世帯に課税者がいると「世帯全員非課税」の段階には入れません。文京区の令和8年度で見ると、本人が非課税で年金収入120万円超の方は、ひとり世帯なら第3段階(年50,300円)、同じ世帯に課税者がいると第5段階(73,300円)。年23,000円の差です。

これも高額介護サービス費と同じで、「同じ世帯にするとパートナーの課税が自分の保険料に響く」形です。ふたりとも非課税なら、同じ世帯でも世帯非課税のままなので変わりません。

施設の食費・居住費の軽減——別世帯でも「配偶者」として見られる

特養・老健・介護医療院やショートステイの食費・居住費は、世帯全員が非課税で預貯金等が基準以下なら、申請で「負担限度額」まで下がります(老人ホームの費用はいくらかに段階別の額)。この判定には、世帯を分けている配偶者も含まれます。そして介護保険法施行規則は、この「配偶者」に「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含めると定めています。

つまり、事実婚のパートナーが住民税を払っていれば、住民票の世帯を分けていても、この軽減は受けられません。預貯金も「夫婦」の額で見られます(第1段階2,000万円以下、第2段階1,650万円以下、第3段階①1,550万円以下、第3段階②1,500万円以下)。この制度は、届出婚と事実婚を最初から同じに扱っているので、世帯分離でどうにかなるものではありません

負担割合と75歳からの医療費——「2人以上の世帯」の基準になる

介護保険の自己負担が1割か2割か3割かは、本人の合計所得と、世帯の65歳以上の人の「年金収入+その他の合計所得」で決まります。2割の線は単身280万円・2人以上の世帯346万円、3割は340万円・463万円。同じ世帯にすると2人以上の基準を使いますが、世帯の65歳以上の人の収入を合計して判定するので、本人が280万円未満でもふたりの合計が346万円以上なら2割になることがあります。線が上がる一方で合計額も増えるため、負担割合は上がる場合と下がる場合があります。

75歳からの医療費の1割・2割の線も同じ構造で、「課税所得28万円以上、かつ年金収入+その他の合計所得が200万円以上」が、世帯内の75歳以上が複数なら320万円以上になります(分かれ目の記事)。

医療費控除だけは、事実婚では合算できない

確定申告の医療費控除は「自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族」のために払った医療費が対象です。税法上、事実婚のパートナーは配偶者でも親族でもないので、相手の医療費を自分の申告に入れることはできません。住民票が同じ世帯でも変わりません。それぞれが自分の分で申告します(年金の確定申告の考え方はこちら)。

では、世帯は同じにするべきか

ここまでを整理すると、判断の軸は3つです。

  1. ふたりとも住民税非課税か——非課税同士なら、同じ世帯にしても介護保険料の段階も高額介護の上限も変わらず、介護の合算の利点が残ります。介護保険料と高額介護サービス費だけを見れば同じ世帯が有利になりやすい形です。ただし国保・後期高齢者医療の均等割の軽減は世帯の所得を合計して判定するので、非課税同士でも合算で7割軽減が5割軽減に変わることがあります。医療保険料の軽減まで含めて確認してください
  2. 片方だけ課税か——非課税の側の介護保険料と高額介護サービス費の上限が上がります。一方で、課税の側の負担割合は2人以上の基準で判定され、高額療養費は合算できます。どちらが介護を多く使うかで結論が変わるので、市区町村の介護保険の窓口で「同じ世帯にした場合・分けた場合」の保険料と上限を聞くのが確実です
  3. 年金の証明のために同じ世帯にしたい——年金の記事で書いたとおり、住民票の同一世帯(続柄「妻(未届)」「夫(未届)」)は遺族年金の生計維持を示す一番強い書類です。医療・介護の損得だけで世帯を分けると、こちらの証明が弱くなります

なお、住民票の世帯を「分ける」届出(世帯分離)は、生計が別であることが前提で、実態を伴わない届出は認められません。自治体によっては、同居夫婦の世帯分離を原則認めない運用があり、事実婚も同様に見られることがあります。世帯分離そのものの効き目と限界は、次の記事「世帯分離で介護費用は下がるか」で整理しています。

今日できること

  1. ふたりの住民税の課税・非課税を確かめる(毎年6月ごろ届く住民税の通知。非課税なら通知が来ないこともある。非課税ライン判定で目安)
  2. ふたりの医療保険が同じか(国保同士か、後期高齢者医療に移っていないか、会社の健康保険の被扶養者か)
  3. 介護を使い始めたら、高額介護サービス費の上限が世帯でいくらになるかを、介護保険の通知(負担割合証・上限の通知)で確かめる
  4. 施設を考え始めたら、負担限度額認定の対象になるかを、ふたりの課税と預貯金で確かめる(別世帯でもパートナーが見られる)

事実婚の備えを、順番に

年金は事実婚と年金、相続は事実婚と相続、施設に入るときの「ご家族ですか」への備えは事実婚のふたりの施設選びへ。世帯を分けることの効き目と限界は世帯分離で介護費用は下がるかで。住民税が非課税かどうかは非課税ライン判定、介護保険料の段階は介護保険料の目安計算で確かめられます。

「うちはこういう形」という事情は、質問・リクエスト箱から教えてください。

このテーマをまとめて読む:老人ホームのまとめ

出典

この記事は、法令・厚生労働省の資料・自治体の案内にもとづく一般的な情報です。介護保険料の段階や保険料率、負担限度額の運用は自治体で異なり、世帯の判定は実際の住民票の状況で行われます。実際の手続きの前に、お住まいの市区町村の介護保険・国民健康保険の窓口でご確認ください。