誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

事実婚と相続——パートナーに相続権はありません。遺言で残せますが、相続税は2割加算・配偶者の税額軽減なし・生命保険の非課税枠なし。家に住み続ける権利、口座、お墓まで、「届出なし」で何が変わるかと、元気なうちにできる5つの備え

前の記事で、年金の世界では事実婚のパートナーが「配偶者」として扱われることを書きました。相続は、その正反対です。民法の「配偶者」は、婚姻の届出をした人だけ。何十年一緒に暮らしていても、遺言がなければ、パートナーが亡くなった瞬間に財産は相続人——子、親、きょうだい——のものになり、残された側の取り分はありません。

「知らなかった」では取り返しがつかない領域なので、この記事は①何が起きるか、②遺言で何が変わり何が変わらないか、③税金の差、④住まい・口座・お墓、⑤元気なうちにできる備え、の順で整理します。

まず結論——相続では「届出婚」と「事実婚」でこう違う

場面届出婚の配偶者事実婚のパートナー
相続人になるか常に相続人(民法890条)相続人ではない。遺言がなければ取り分ゼロ
遺言で受け取れるか受け取れる受け取れる(遺贈)。ただし相続人の遺留分が優先される場合がある
遺留分(最低限の取り分)あるない。遺言に書かれていなければ請求できない
相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)「法定相続人の数」に入る数に入らない
相続税の配偶者の税額軽減(1億6千万円または法定相続分まで非課税)使える使えない
相続税の2割加算なしあり(一親等の血族と配偶者以外)
生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)使える使えない(相続人以外が受け取る保険金に非課税の適用なし)
小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価を最大8割減)使える使えない(取得する人が「親族」であることが要件)
持ち家に住み続ける権利(配偶者居住権)あるない(民法の「配偶者」に限られる)
借家に住み続ける権利賃借権を相続相続人がいない場合、同居していたパートナーが賃借権を引き継げる(借地借家法36条)
相続人が誰もいないとき「特別縁故者」として家庭裁判所に財産の分与を申し立てられる
お墓・仏壇(祭祀財産)指定または慣習で承継亡くなった方が指定していれば承継できる(民法897条)

相続権がない、とはどういうことか

民法890条は「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」と定めています。ここでいう配偶者は届出婚に限られ、国税庁の案内でも、相続人の範囲に内縁の配偶者は入りません。相続人は、子(いなければ孫)→ 親(いなければ祖父母)→ きょうだい(いなければ甥姪)の順で決まり、パートナーはこの列のどこにもいません

具体的に何が起きるか。パートナー名義の自宅で暮らしていた場合、その家はパートナーの子や親、あるいは何年も会っていないきょうだいのものになります。預金も同じです。相続人が「住み続けていい」と言ってくれるかどうかは、相続人の善意しだい。これが事実婚の相続の出発点です。

遺言で残す——できること、できないこと

解決の中心は遺言です。遺言で「パートナーに○○を遺贈する」と書けば、相続人でない人にも財産を渡せます。ただし2つの限界があります。

① 相続人の遺留分は消せない

子・親(直系尊属)には、遺言でも奪えない最低限の取り分「遺留分」があります(直系尊属だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1)。たとえば亡くなった方に子が1人いて、遺言で全財産をパートナーに遺贈しても、子は財産の2分の1に当たる金額をパートナーに請求できます(遺留分侵害額請求)。ただしきょうだいには遺留分がありません。相続人がきょうだいや甥姪だけなら、遺言で全部をパートナーに残せます。

② 遺言の形式を守らないと無効になる

自筆で書くなら、全文・日付・氏名を自書して押印(財産目録はパソコンで作れますが、その各ページに署名・押印が要ります)。法務局に預ければ3,900円で検認が要らなくなります。公正証書なら公証人が作るので形式の不備がなく、原本が公証役場に残ります。相続人と争いになりやすい事実婚では、公正証書遺言が向いています。書き方と預け方は遺言書の書き方と法務局保管に詳しく書きました。

税金——同じ財産を受け取っても、事実婚のほうが高くなる

遺言で財産を受け取れたとして、次は税金です。相続税の計算では、事実婚のパートナーは4つの点で不利です。

  1. 基礎控除の人数に入らない——基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。パートナーは法定相続人でないので、人数に数えられません
  2. 配偶者の税額軽減が使えない——届出婚の配偶者は1億6千万円か法定相続分のどちらか多い額まで相続税がかかりませんが、これは婚姻の届出をした配偶者だけの制度です
  3. 2割加算——相続や遺贈で財産を受け取った人が「一親等の血族(子・親)と配偶者以外」なら、相続税額が2割増しになります。パートナーはこれに当たります
  4. 生命保険の非課税枠が使えない——死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は、受取人が相続人のときだけ。パートナーが受取人の保険金は全額が課税対象で、しかも2割加算です

さらに、自宅の土地の評価を最大8割下げる「小規模宅地等の特例」は、取得する人が被相続人の親族であることが要件なので、パートナーには使えません。相続税がかかるかどうかの目安は相続税の基礎控除 計算で、法定相続人の数を「パートナーを除いた人数」で入れて確かめてください。

生前に贈与する方法もあります。届出婚の「居住用不動産の贈与の配偶者控除(2,000万円)」は事実婚では使えないので、年110万円の基礎控除を使うことになりますが、遺言や保険で財産を受け取る人への死亡前の一定期間の贈与は相続税の計算に加算されます(2024年以後の贈与から、加算の期間が段階的に最長7年に延びています)。長く続けるなら税理士に確認するのが安全です。

相続人が誰もいないとき——「特別縁故者」の道

亡くなった方に子も親もきょうだいもいない(または全員が相続放棄した)場合、パートナーは家庭裁判所に「特別縁故者に対する相続財産分与」を申し立てられます。対象は「被相続人と生計を同じくしていた者」「療養看護に努めた者」「その他特別の縁故があった者」で、同居して家計を共にしていた事実婚のパートナーは典型例です。

ただし手順は長く、まず家庭裁判所に「相続財産清算人」を選んでもらい、相続人を探す公告の期間が満了してから3か月以内に申し立てます。清算人の報酬などをまかなう予納金が必要になることもあります。認められるかどうか、いくら分与されるかは裁判所の判断です。「相続人がいないから自然に自分のものになる」わけではないので、相続人がいない場合こそ、遺言で明確にしておくのが確実です。

住まい——持ち家と借家で正反対

持ち家(パートナー名義)の場合、2020年にできた「配偶者居住権」(配偶者が亡くなるまで無償で住み続けられる権利)は、民法の配偶者、つまり届出婚に限られます。事実婚では使えないので、住み続けるには、遺言で家そのものを遺贈してもらうか、家に住む権利(使用貸借など)を遺言や契約で定めておく必要があります。相続人が家を売ることになれば、出ていかざるを得ません。

借家の場合は逆に、法律が事実婚を守っています。借地借家法36条は、居住用の建物を借りていた人が相続人なしに亡くなったとき、婚姻の届出をしていないが事実上夫婦と同様の関係にあった同居者は、その建物の賃借権を引き継ぐと定めています。相続人がいる場合は相続人が賃借権を承継しますが、同居のパートナーが住み続けることを大家と相続人に認めてもらう形になります。

口座・お墓・手続き——「家族」として扱われない場面

  • 預金口座——亡くなると口座は凍結され、払戻しは相続人が行います。遺産分割前に相続人が一定額を引き出せる制度(上限は口座ごとではなく、同じ金融機関ごとに150万円)も、相続人向けです。パートナーは、遺言で預金を遺贈されていない限り手を付けられません。生活費が一人の口座に集中しているなら、平時から分けておくことが備えになります
  • お墓・仏壇——祭祀財産は相続財産と別で、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継しますが、亡くなった方が指定していればその人が承継します。パートナーに託したいなら、遺言で祭祀主宰者を指定できます
  • 死後の手続き——葬儀、役所の届出、家財の片づけ、施設や病院の精算。相続人でないパートナーがこれを担うには、「死後事務委任契約」を結んでおくのが確実です。公正証書にすれば、施設や役所に対して根拠を示せます
  • 認知症になったとき——判断能力が下がると、パートナーは代理で口座を動かせません。元気なうちに任意後見契約(公正証書)を結んでおけば、パートナーを後見人に指定できます。仕組みは親が認知症になったら口座はどうなるかに書きました

元気なうちにできる5つの備え

備え何が解決するかどこで
① 遺言(公正証書が確実)相続権がない問題そのもの。家・預金・祭祀の承継者を指定できる公証役場。自筆なら法務局の保管制度(3,900円)
② 生命保険の受取人をパートナーに遺留分の対象になりにくく、現金が直接パートナーに渡る。ただし非課税枠なし・2割加算保険会社(内縁の受取人指定には各社の条件がある。同居年数や戸籍上の配偶者がいないことの確認など)
③ 死後事務委任契約葬儀・役所・精算・片づけをパートナーが行える公証役場(公正証書)
④ 任意後見契約認知症になったあとの財産管理と施設契約公証役場(公正証書)
⑤ 名義と住民票の整理家・預金の名義がどちらか、住民票が同一世帯か(「未届」の続柄)。年金の証明にも効く市区町村の窓口、金融機関

①・③・④は、まとめて公証役場で相談できます。費用は財産の額や契約の数で変わるので、事前に見積もりをもらってください。②の受取人の変更は、加入している保険会社の手続きです。遺言・死後事務委任・任意後見・受取人の変更は、本人の意思能力があるうちにしか準備できません。年金の記事で書いた「証明は元気なうちに」と同じことが、相続ではもっと重く効きます。

今日できること

  1. 二人の財産(家・預金・保険)の名義を一覧にする。「どちらが先に亡くなっても、相手が住み続けられるか」を確かめる
  2. お互いの相続人が誰か(子・親・きょうだい)を書き出す。遺留分があるのは子と親、きょうだいにはない
  3. 公証役場に「遺言・死後事務委任・任意後見をまとめて相談したい」と予約する
  4. 生命保険の受取人が誰になっているか、保険証券で確かめる

事実婚の備えを、順番に

年金については事実婚と年金、施設に入るときの「ご家族ですか」への備えは事実婚のふたりの施設選びへ。遺言の書き方は遺言書の書き方と法務局保管、認知症のあとの口座は親が認知症になったら口座はどうなるか、相続税がかかるかは相続税の基礎控除 計算で確かめられます。

「うちはこういう形」という事情は、質問・リクエスト箱から教えてください。

このテーマをまとめて読む:老後資金のまとめ

出典

この記事は、民法・税法・裁判所と国税庁の案内にもとづく一般的な情報です。相続・遺言・税金は、家族構成や財産の内容で結論が変わります。遺言や契約を作る前に、公証役場・司法書士・税理士・弁護士にご相談ください。特定の商品やサービスを勧めるものではありません。