事実婚と年金——遺族年金・加給年金・扶養は「婚姻届なし」でも対象になる。法律に「事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」と書いてあるからです。ただし申立書と証明が要り、年金分割は対象が限られ、相手に戸籍上の配偶者がいると壁があります
「籍を入れていないと、年金は何ももらえないんでしょう」——事実婚のご夫婦から、いちばんよく聞く思い込みです。答えは逆で、年金の世界では、事実婚のパートナーは原則として「配偶者」です。国民年金法と厚生年金保険法の両方に、こう書いてあります。
この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
(国民年金法 第5条第7項・厚生年金保険法 第3条第2項)
健康保険法も同じで、被扶養者の「配偶者」に「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」と定めています。つまり、遺族年金も、加給年金も、扶養も、婚姻届がなくても届出婚と同じ土俵に乗ります。ただし「同じ土俵に乗る」と「自動的に認められる」は別で、年金や扶養の手続きそのものは同じように必要なうえ、事実婚だと証明する手続きが一段多いのです。この記事は、何が効いて何が効かないか、証明に何が要るか、そしてつまずきやすい2つの壁(年金分割と、相手に戸籍上の配偶者がいる場合)を整理します。施設選びの話は事実婚のふたりの施設選びに、相続の話は別の記事に書きます。
一覧——婚姻届がなくても「効く」年金と「効かない」もの
| 制度 | 事実婚で | 条件・注意 |
|---|---|---|
| 遺族厚生年金(基本額は亡くなった方の報酬比例部分の4分の3) | ○ 受け取れる | 亡くなった方に「生計を維持されていた」こと(同一生計+前年の収入850万円未満)。子のない30歳未満の妻は5年の有期など、届出婚と同じ条件が付く。受け取る側が65歳以上で自分の老齢厚生年金がある場合は別の計算との比較や併給調整がある |
| 遺族基礎年金(18歳年度末までの子がいる場合) | ○ 受け取れる | 「子のある配偶者」に事実婚を含む。子との関係は戸籍で確認される |
| 配偶者加給年金(年243,800円+特別加算) | ○ 加算される | 厚生年金20年以上の方が65歳になったとき、生計を維持する65歳未満の配偶者がいる場合。専用の申立書(様式5)が要る。配偶者自身に加入20年以上の老齢厚生年金や障害年金の受給権があると停止(繰下げ中で受け取っていなくても対象) |
| 振替加算 | ○ 加算される | 配偶者が65歳になって加給年金が終わったあと、配偶者が生年月日や加入期間の要件を満たせば配偶者側の基礎年金に上乗せ。申立書は様式6 |
| 未支給年金(亡くなった月までの未払い分) | ○ 受け取れる | 請求する人が事実婚の配偶者の場合は、戸籍謄本で「戸籍上の配偶者がいないこと」の確認と申立書(様式7)が要る |
| 寡婦年金(夫の国民年金第1号被保険者としての納付・免除期間が10年以上ある場合、妻に60〜65歳) | ○ 受け取れる | 「10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)」が条件。夫が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けたことがある場合などは支給されない |
| 死亡一時金 | ○ 受け取れる | 亡くなった方の第1号被保険者としての保険料納付済月数が36月以上で、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった場合。生計を同じくしていた配偶者が第1順位。遺族基礎年金を受けられる場合は原則対象外で、寡婦年金とはどちらか一方を選択。申立書は様式7 |
| 国民年金の第3号被保険者(保険料を納めずに加入) | ○ なれる | 厚生年金に入っている相手に扶養される20歳以上60歳未満で、原則として年収130万円未満かつ相手の年収の2分の1未満。届出書に「内縁」を選ぶ欄がある |
| 健康保険の被扶養者 | ○ なれる | 健康保険法第3条第7項で明記。年収130万円未満(60歳以上は180万円未満) |
| 離婚時の年金分割 | △ 一部だけ | 事実婚が解消したときに分けられるのは、一方が相手の扶養(第3号被保険者)だった期間の厚生年金記録だけ。共働きで二人とも厚生年金だった期間は対象外 |
| 所得税・住民税の配偶者控除 | × 使えない | 税法の「配偶者」は届出婚だけ。相続税の配偶者の税額軽減も同じ(別記事) |
上の8つが「○」なのは、根拠が同じだからです。年金と健康保険の法律が「配偶者」に事実婚を含めている。反対に、税金の法律は含めていない。「事実婚は不利」なのは年金ではなく、税金と相続だと覚えておくと整理しやすくなります。
「事実婚」と認められる要件——合意と実態の2つ
年金の窓口が使う認定の基準は、厚生労働省の通知(「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」)に書かれています。事実婚関係とは「婚姻の届出を欠くが、社会通念上、夫婦としての共同生活と認められる事実関係」で、次の2つが要ります。
- 当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意があること
- 当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在すること
「合意」と「実態」。書面での婚姻の約束があるかではなく、周りから見て夫婦として暮らしているかが問われます。同居しているか、家計が一緒か、それを第三者が知っているか。これを、次の書類で示すことになります。
求められる書類——申立書・第三者の証明・住民票
日本年金機構のページ「生計同一関係・事実婚関係に関する申立をするとき」に、用途別の様式が並んでいます。事実婚の方が使うのは「事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書」で、加給年金は様式5、振替加算は様式6、遺族年金・未支給年金・死亡一時金は様式7です。
| 書類 | 何を示すか | 備考 |
|---|---|---|
| 事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書(様式5〜7) | 婚姻の意思と、生計が同一であること | 婚姻の意思については、原則として第三者による証明欄への記入が要る。会社・病院・施設などの法人が証明する場合は、所在地・名称・証明者の役職・氏名・電話番号が必要 |
| 二人それぞれの戸籍謄本(抄本) | 戸籍上の配偶者がいないこと | 亡くなった日より後に交付されたものが必要(遺族年金・未支給の場合) |
| 世帯全員の住民票の写し | 同居・同一世帯であること | 同じ住所で世帯が別のときも、住民票上住所が同じなら「生計を同じくしている」と扱われる。マイナンバーの記入で省略できる場合あり |
| 別居の場合の証明書類 | 仕送りや扶養の事実 | 単身赴任・入院・施設入所などのやむを得ない事情なら認められる。健康保険の被扶養者になっている、給与の家族手当の対象になっている、などが証拠になる |
| 所得証明書・課税(非課税)証明書 | 生計維持の収入要件 | 受け取る側の前年の収入が850万円未満(または所得655万5千円未満)。定年退職などで5年以内にそこまで下がる見込みでも可 |
ここで、事実婚のご夫婦にいちばん先にお伝えしたいのが住民票の続柄です。同じ世帯にして、続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」にしておくと、同居と婚姻の意思の両方を示す一番強い書類になります。住民票の記載は市区町村の窓口で変更できます(世帯合併の届出)。年金の請求は亡くなってから動くものが多いので、元気なうちに住民票を整えておくことが、事実婚の年金対策の第一歩です。
遺族厚生年金——事実婚でも「4分の3」は同じ、条件も同じ
遺族厚生年金の基本額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です(受け取る方が65歳以上で自分の老齢厚生年金を受けられる場合は、別の計算との比較や併給調整があります)。事実婚だから減る、ということはありません。受け取れる人の順位も、届出婚と同じで「子のある配偶者 → 子 → 子のない配偶者 → 父母 …」です。つまずくのは金額ではなく、次の2点です。
- 生計維持の証明——上の表の書類で、「同一生計」と「収入850万円未満」を示す
- 戸籍上の配偶者がいないこと——二人の戸籍謄本で確認される。どちらかが前の結婚の離婚届を出していないと、次の「重婚的内縁」の話になる
また、届出婚の遺族厚生年金に付いている条件(子のない30歳未満の妻は5年で終わる、子のない夫は55歳以上で60歳から、2028年4月からの見直し)は、事実婚にもそのまま当てはまります。制度の中身は遺族年金の「2つの5年」と夫婦の年金がひとり分になるときをご覧ください。
壁①:相手に戸籍上の配偶者が残っている——「重婚的内縁」
事実婚の年金で、実際に認められないケースの多くがここです。どちらかが前の結婚を戸籍上解消していない場合、法律は届出による婚姻を優先します。通知にはこうあります。
届出による婚姻関係がその実体を全く失ったものとなっているときに限り、内縁関係にある者を事実婚関係にある者として認定するものとすること。
「実体を全く失った」と扱われるのは、たとえば次の場合です。
- 離婚の合意にもとづいて夫婦としての共同生活をやめているが、戸籍上の離婚届を出していないとき
- 一方の悪意の遺棄によって共同生活が行われていない状態が長期間(おおむね10年程度以上)続き、双方の生活がそのまま固定していると認められるとき
そして「共同生活の状態にない」と言えるには、①住居が別、②経済的な依存関係が反復して存在しない、③音信や訪問が反復して存在しない、の3つすべてが要ります。年金機構は戸籍上の配偶者にも別居の時期や離婚の合意の有無を調査しますが、相手の任意の協力によるものです。
言い換えると、「もう何十年も別々に暮らしているから大丈夫」は、仕送りが続いていたり、盆暮れに顔を合わせていたりすると崩れます。前の結婚が残っている方は、可能なら戸籍上の離婚を済ませておくことが、パートナーの年金を守るいちばん確実な方法です。
壁②:年金分割は「扶養に入っていた期間」だけ
届出婚の離婚では、婚姻期間中の厚生年金の記録を分ける「年金分割」ができます。事実婚の解消でも分割はできますが、対象は一方が相手の扶養(国民年金の第3号被保険者)だった期間に限られます。日本年金機構の案内でも、事実婚について「国民年金第3号被保険者資格を喪失し、事実婚関係が解消したと認められるとき」が請求のきっかけとされ、分割の対象になるのはその第3号被保険者期間中の相手の厚生年金記録です。
二人とも会社員で厚生年金に入っていた期間は、事実婚では分割の対象になりません。請求期限は、事実婚が解消したと認められた日の翌日から5年(令和8年4月1日より前の解消なら2年)です。
第3号被保険者と健康保険の扶養——「内縁」の欄がある
厚生年金に入っている方のパートナーが、原則として年収130万円未満で相手の年収の2分の1未満なら、国民年金の第3号被保険者になれます(2分の1以上でも、生計維持の実態によって認められる場合があります)。保険料を個別に納めずに、基礎年金の受給資格期間と年金額に反映される期間です。届出は相手の勤務先を通じて出す「国民年金第3号被保険者関係届」で、続柄の欄に「内縁」の選択肢があります。健康保険の被扶養者の手続きも通常は勤務先経由ですが、加入している健康保険(協会けんぽか健康保険組合かなど)によって届書が異なるため、勤務先に確認してください。被扶養者の収入の線は、60歳以上なら年収180万円未満です。
この扶養に入っていた期間が、上で書いた年金分割の対象になります。逆に言えば、扶養に入る手続きをしていないと、事実婚の解消時に分けるものがありません。
加給年金と振替加算——申立書の様式が違う
厚生年金に20年以上入っていた方が65歳になり、生計を維持する65歳未満の配偶者がいると、年243,800円の配偶者加給年金(生年月日に応じた特別加算つき)が上乗せされます。事実婚の配偶者も対象ですが、年金請求のときに様式5の申立書と生計維持の証明書類を添えます。ただし、配偶者自身に加入期間20年以上の老齢厚生年金や障害年金の受給権があると、加給年金は停止されます(繰下げ中で実際には受け取っていなくても、受給権があれば停止の対象です)。
配偶者が65歳になると加給年金は終了します。配偶者が生年月日や年金の加入期間などの要件を満たす場合は、その老齢基礎年金に振替加算が付きます(様式6)。配偶者の生年月日が昭和41年4月2日以後なら振替加算はありません。
今日から確かめられること
- 住民票——同じ世帯か、続柄が「妻(未届)」「夫(未届)」になっているか。なっていなければ市区町村の窓口で世帯合併の届出を
- 戸籍——二人とも、前の結婚が戸籍上きちんと終わっているか。残っていれば「重婚的内縁」の壁になる
- 扶養——一方が厚生年金なら、パートナーを第3号被保険者・健康保険の被扶養者にしているか(原則として年収130万円未満が条件)
- 第三者——申立書の証明欄に書いてくれる人(親族・友人・勤務先・かかりつけ医など)を、二人で決めておく
- 加給年金——年金を受け取る側の厚生年金の加入期間(20年以上か)、生計を維持している配偶者の年齢(65歳未満か)、配偶者自身の年金の受給権(あると停止)の3つを確かめる。二人分の見込額は年金はいくらもらえるかで
事実婚の年金は「もらえない」のではなく「証明が要る」。証明の材料は、元気なうちにしか揃えられないものばかりです。
事実婚の備えを、順番に
施設に入るときに聞かれる「ご家族ですか」への備えは事実婚のふたりの施設選びへ。遺族年金の仕組みそのものは遺族年金の「2つの5年」と夫婦の年金がひとり分になるときで。二人の年金の見込額は年金はいくらもらえるか、税金が引かれたあとの手取りは年金の手取り計算をどうぞ。
「うちはこういう形」という事情は、質問・リクエスト箱から教えてください。
このテーマをまとめて読む:年金のまとめ
出典
- 国民年金法(e-Gov法令検索)第5条第7項(「配偶者」「夫」「妻」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む) (2026年9月21日確認)
- 厚生年金保険法(e-Gov法令検索)第3条第2項(同旨) (2026年9月21日確認)
- 健康保険法(e-Gov法令検索)第3条第7項(被扶養者の「配偶者」に、届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む) (2026年9月21日確認)
- 厚生労働省年金局長通知「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23年3月23日 年発0323第1号。事実婚関係の要件〈合意と事実関係〉、住民票上同一世帯・同一住所の扱い、収入要件850万円・655万5千円、重婚的内縁関係〈届出による婚姻関係がその実体を全く失ったときに限り認定・おおむね10年程度以上・住居が別/経済的依存なし/音信なし〉) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「生計同一関係・事実婚関係に関する申立をするとき」(様式5 加給年金・様式6 振替加算・様式7 遺族年金・未支給・死亡一時金。第三者による証明、法人が証明する場合の記載事項) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」(請求する方が事実婚関係にあった配偶者の場合の添付書類:戸籍上の配偶者の有無が確認できる二人の戸籍謄本、住民票、様式7。事実婚関係の定義) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構 年金用語集「生計維持」(同一生計、前年の収入850万円未満または所得655万5千円未満) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」(報酬比例部分の4分の3、遺族の順位、子のない30歳未満の妻は5年、子のない夫は55歳以上) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「寡婦年金」(夫と10年以上継続して婚姻関係〈事実上の婚姻関係を含む〉にあり、生計を維持されていた妻に60歳から65歳まで) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「死亡一時金」(第1号被保険者としての保険料納付済月数36月以上、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま死亡、遺族基礎年金を受けられるときは支給されない、寡婦年金とは選択) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」(配偶者243,800円・特別加算、対象は生計を維持されている65歳未満の配偶者、振替加算は昭和41年4月2日以後生まれはなし) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「離婚時の年金分割」(合意分割・3号分割。事実婚関係にある人が国民年金第3号被保険者資格を喪失し事実婚関係が解消したと認められるときが請求のきっかけ、請求期限5年〈令和8年4月1日前は2年〉) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)」(事実婚関係にある期間の情報通知書等を請求する場合はその事実を明らかにする書類〈住民票等〉が必要) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構 年金用語集「第3号被保険者」(第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者、年収130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満) (2026年9月21日確認)
- 日本年金機構「国民年金第3号被保険者関係届」様式(性別〈続柄〉の欄に内縁の選択肢) (2026年9月21日確認)
- 国税庁「配偶者控除に関するQ&A」(内縁関係は配偶者控除の対象外) (2026年9月21日確認)