誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

夫婦の年金が、ひとり分になるとき——何が残り、何が消え、何が4分の3になるのか

夫婦ふたりの年金が、ひとり分になるとき。いくらになるのか、考えたことはありますか。

令和8年度の「標準的なモデル年金」は、平均的な収入(平均標準報酬45.5万円)で40年間働いた夫と、その配偶者の場合で、夫婦あわせて月237,279円です。このモデルで夫が先に亡くなり、65歳以上の妻に自分の老齢厚生年金がない場合、残る年金は月14万2千円あまり(約142,700円)になります。

これは「平均」ではなく、モデルケースの計算です。国民年金だけのご家庭や、共働きだったご家庭では数字がまったく違います。ただ、何が残って、何が消え、何が4分の3になるのかという考え方は、多くのご家庭に当てはまります。この記事は、その考え方を順番に分解します。共働きだった方は、後半が本番です。

この記事で扱うのは、主に現在の制度で、お子さんが独立した65歳以上の配偶者が遺族厚生年金を受けられる場合です。受給には、亡くなった方の加入・納付状況や、遺族の生計維持関係などの要件があります。18歳年度末までのお子さん(一定の障害がある場合は20歳未満)がいる場合、中高齢寡婦加算・経過的寡婦加算が付く場合、平成19年4月1日より前から受給権があり同日時点で65歳以上だった場合、2028年4月施行予定の改正の対象になる場合は、この記事の計算と異なることがあります。

遺族年金は2種類ある

遺族年金には、遺族基礎年金遺族厚生年金があります。遺族基礎年金は、原則として18歳になった年度末までのお子さんがいる家庭に出るもので、お子さんが独立したご家庭にはまず出ません。ですからこの記事は、遺族厚生年金を配偶者が受け取る場合の話です。

遺族厚生年金の元になるのは、亡くなった方の老齢厚生年金のうち「報酬比例部分」——会社員時代の給料に応じて決まる、上乗せの部分です。その4分の3が基本になります。年金の全部が4分の3になるのではありません。ここが、あとで大事になります。

残るもの・消えるもの・4分の3になるもの

何がどうなる
残る自分の老齢基礎年金そのまま。自分自身の権利による年金なので、連れ合いが亡くなったことを理由に減ることはありません
消える亡くなった方の老齢基礎年金まるごと消えます。4分の3にもなりません。ゼロです
消える加給年金厚生年金に20年以上入っていた方に65歳未満の配偶者がいるとき、一定の条件で上乗せされるお金(令和8年度は、生年月日に応じた特別加算を含めて最大で年423,700円)。亡くなると止まります。もともと配偶者が65歳になるまでの期間限定なので、すでに終わっているご家庭も多い部分です
4分の3亡くなった方の報酬比例部分4分の3が遺族厚生年金として出ます。減りはしますが、消えはしません

落差がいちばん大きいのは、実は「相手の基礎年金がまるごと消える」ところです。この3つが、見通しをつける土台になります。

モデルケースで計算する

モデル年金の夫婦で、夫が先に亡くなったとします。妻には自分の老齢厚生年金がなく、昭和31年4月2日以後生まれで、寡婦加算などの加算がない、という前提です。

夫婦で受け取っていたときひとりになったあと
妻の老齢基礎年金70,608円70,608円(そのまま)
夫の老齢基礎年金70,608円0円(消える)
夫の報酬比例部分約96,100円約72,000円(4分の3が遺族厚生年金に)
合計(月)237,279円約142,700円

「約96,100円」は、モデル年金237,279円から老齢基礎年金2人分(70,608円×2)を差し引いた概算(96,063円)で、モデルの内訳そのものではありません。合計は70,608円+96,063円×3/4=約142,655円です(動画では「14万2千円ほど」と丸めています)。70,608円は昭和31年4月2日以後生まれの方の満額です(昭和31年4月1日以前生まれの方は70,408円)。

減るのは、月におよそ9万5千円。もとのおよそ6割になります。半分ではありません、6割です。ただし、暮らしのほうは6割にはなりません。家賃は変わりませんし、光熱費も、人数が減ったぶんだけ減るというものではないからです。

ここまでの数字は「額面」です——ただし遺族年金は非課税

ここまでの金額は、税金や保険料を引く前の額面です。ただ、遺族年金には所得税も住民税もかかりません。課税の対象になるのは、自分の老齢年金のほうだけです(実際に税金がかかるかどうかは、控除しだいです)。額面と手取りの違いは、年金から天引きされる5つの正体で整理しています。

共働きだった方へ——ここからが本番です

ここまでは、残された側に自分の老齢厚生年金がない場合でした。共働きだった方、若いころに何年かお勤めに出ていた方。自分にも厚生年金がある場合、4分の3がそのまま足されるのではありません。65歳からは、計算のしかたが変わります。

自分の年金が、先に出ます

65歳以上で、遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金の両方を受ける権利がある方は、まず自分の老齢厚生年金が全額支給されます。そのかわり、遺族厚生年金のほうから、自分の老齢厚生年金に相当する額が支給停止になります。両方をまるごと受け取ることはできません。順番としては、まず遺族厚生年金の計算額を決めて、そこから自分の年金と重なる分が止まる、というかたちです。

計算は「高いほう」が採用されます

遺族厚生年金の計算には、式が2つあります。

  • A=亡くなった方の報酬比例部分 × 4分の3
  • B=亡くなった方の報酬比例部分 × 2分の1 + 自分の老齢厚生年金 × 2分の1

このAとBの高いほうが、遺族厚生年金の額になります。自分にも厚生年金がある方は、Bのほうが高くなることがあります。

例:自分の老齢厚生年金が7万円あると

計算結果
A96,000円 × 3/472,000円
B96,000円 × 1/2 + 70,000円 × 1/2 = 48,000円 + 35,000円83,000円

高いのはBです。厚生年金の部分は、あわせて8万3千円で計算されます。厚生年金の部分に限れば、受け取りは自分の老齢厚生年金7万円 + 遺族厚生年金1万3千円という組み合わせになります。これに、自分の老齢基礎年金などが加わります。厚生年金の部分だけで見ると、4分の3の7万2千円より1万1千円多い計算です。

半分ずつ足すBの式は、自分が納めてきた保険料を年金額に反映させるための仕組みです。ただし、自分の老齢厚生年金は全額支給されるものの、その金額に応じて遺族厚生年金が調整されます。働いた分が遺族厚生年金へそのまま上乗せされるわけではなく、受取総額が1円ずつ増えるとも限りません。逆に、計算した額が自分の老齢厚生年金以下のときは、遺族厚生年金は出ません(自分の年金だけになります)。ご自分がどちらになるかは金額しだいなので、数字を見ておく必要があるのです。

繰下げを考えている方は、ひとつだけ注意

日本年金機構の案内では、原則として66歳になる前に遺族年金等を受け取る権利ができた場合、老齢年金の繰下げはできません。66歳以降の繰下げ待機中に権利ができた場合は、その時点で増額率が固定されます(令和7年の法改正で、令和10年3月31日時点で遺族厚生年金を受ける権利があり、かつ65歳未満の方〈昭和38年4月2日以後生まれ〉は扱いが一部変わります)。繰下げを予定している方は、この点を年金事務所で確認してください。

自分の家の数字で確かめる

  1. 毎年届く年金額改定通知書ねんきんネットで、ご夫婦それぞれの老齢基礎年金・老齢厚生年金の額を確認する。ただし、通知書の老齢厚生年金の額が、そのまま遺族厚生年金の計算に使う報酬比例部分とは限りません。また、遺族年金の見込額はねんきんネットでは試算できません。
  2. 年金事務所で、遺族年金を含めたご自分の場合の見込額を確認する。この記事の内容を頭に入れてから行くと、説明がよく分かるはずです。
  3. 年金の番号が分かるものの置き場所を、お互いに知っておく。

こういう話は「縁起でもない」と言われることがあります。でも、これは段取りの話です。どちらが先になるかは分かりませんし、残されたほうが困りやすいことのひとつが、お金のことです。親御さんのことで読んでくださっている方も、一度ご実家で話題にしてみてください。話せる時間が、あるうちに。

なお、遺族年金は請求しないと出ません。請求の手続き・さかのぼれる期間(時効の5年)・2028年の改正(「5年で終わる」と報道されたもの)は、この記事では扱っていません。別の記事で整理する予定です。

動画でも話しています・あわせて読む

額面から手取りに直す考え方は天引きの記事、ひとり分の年金と生活費の並べ方は年金14万円の現実へ。事実婚のパートナーの遺族年金については事実婚のふたりの施設選びの中で触れています。

「うちの場合はどうなる?」という疑問があれば、質問・リクエスト箱から教えてください。記事の形でお答えしていきます。

この記事は一般的な情報です。受給要件や実際の年金額は、個人の加入記録・年齢・家族状況などで異なります。年金事務所などでご確認ください。