誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

年金は何歳から受け取るのが正解か——繰上げ・65歳・繰下げを「手取り」と「健康寿命」で考える

年金の受け取り開始は、60〜64歳に早める「繰上げ」、65歳でそのまま、66〜75歳に遅らせる「繰下げ」の3つから選べます。繰上げは1ヶ月につき0.4%の減額(60歳まで早めると24%減)、繰下げは1ヶ月につき0.7%の増額(75歳まで待つと84%増)。どちらも一度選ぶと増減率は一生変わらず、やり直しはできません

実際の選択はどうなっているか。厚生労働省の統計では、厚生年金で繰上げを選んだ人は約1%、繰下げも約2%。おおよそ97%の人が65歳で受け取り始めています。判断が難しいから動かない——それが実態だと思います。この記事では、判断の材料を「手取り」と「健康寿命」の2つの軸で整理します。

額面の比較はシンプル。でも額面では暮らせない

65歳で月15万円(年180万円)のモデルケースで並べると、60歳繰上げなら月11万4千円、70歳繰下げなら月21万3千円、75歳繰下げなら月27万6千円。数字だけ見ると繰下げが圧倒的に見えます。

しかし年金からは税金と保険料が天引きされます。試算では、70歳まで繰り下げて額面が年75万6千円増えても、天引きも年17〜22万円増え、手取りの増加は53〜58万円程度。増額分の2〜3割は消える計算です。何が引かれるのかは別の記事に書きました。

その結果、損益分岐点も後ろにずれます。70歳繰下げの場合、この試算では額面ベースで約82歳、手取りベースでは約84歳。75歳繰下げでは手取りベースで約90歳です。

繰下げの7つの落とし穴

  1. 住民税が非課税から課税に変わる——65歳以上の単身の方は、年金収入がおおよそ年155万円以下なら住民税非課税です(目安。自治体により異なります。非課税ラインの判定ツールで確かめられます)。繰下げで超えると、高額療養費の上限・介護保険料の軽減・年金生活者支援給付金などが連鎖的に変わります。住民税そのものは数万円でも、連鎖する影響はずっと大きくなりえます
  2. 介護保険料の段階が上がる
  3. 国民健康保険料・後期高齢者医療保険料が上がる(前年所得に連動するため)
  4. 75歳からの医療費の窓口負担が1割→2割になることがある(単身の場合、年金収入等がおおよそ年200万円以上が目安)
  5. 加給年金が受け取れない——年下の配偶者がいる方への上乗せ(年額約42万円・令和8年度)は、厚生年金を繰り下げている間は支給されず、あとから増えもしません。繰下げでいちばん見落とされやすい点です
  6. 遺族厚生年金には増額が反映されない——ご自身が亡くなったあとに配偶者が受け取る遺族厚生年金は、繰下げで増やした分が反映されません。「家族のために増やす」目的なら、この点は知っておく必要があります
  7. 待っている間、貯金が減る——月15万円の生活費なら5年で約900万円。70代は病気や住まいの修繕など予想外の出費も増えます

もうひとつの軸——健康なうちに使えるか

損益分岐点の議論はたいてい「平均寿命」で語られますが、当サイトが大事にしているのは健康寿命です。日常生活に制限なく過ごせる期間の平均は、男性72.57歳・女性75.45歳(2022年・厚生労働省)。平均寿命との差の8〜12年は、何らかの制限のある期間になります。

70歳まで繰り下げた場合、平均どおりなら、健康な状態で年金を使える期間は男性で約2年。65歳受給なら約7年です。体が動くうちにしかできないこと——旅行も、趣味も、孫と遊ぶことも——のための5年の差を、増額とどう天秤にかけるか。これは金額だけでは答えの出ない問いです。ご自身の数字では、繰下げ損益分岐の計算機で「元気なうちに受け取れる額」を確かめられます。

考え方の整理——3つのタイプ

どれが正解かは人によります。あくまで整理として、こういう条件なら検討する余地がある、という形で並べます。

選択検討する余地があるのは特に注意すること
繰上げ(60〜64歳)65歳前に収入の見込みがなく、すぐ年金が必要な方減額は一生続く。繰上げ後は、障害の状態になっても障害年金を請求できない場合がある
65歳で受給迷っている方・加給年金の対象の方約97%が選ぶ、いちばんリスクの小さい選択
繰下げ(66〜75歳)65歳以降も十分な収入がある方・貯蓄に余裕がある方上の7つの落とし穴。基礎年金だけ繰り下げる「部分繰下げ」なら加給年金を守りながら増やせる

「何歳からもらうのが正解か」に万人共通の答えはありません。額面ではなく手取りで、平均寿命ではなく健康寿命で、そしてご自身の家族構成・貯蓄・健康状態で考える。迷ったら、ねんきんダイヤルや年金事務所で、ご自身の数字をもとに相談してください。

手取りの試算は東京都文京区・単身のモデルケースによるもので、お住まいの自治体と所得で変わります。

ご自身の数字で確かめる

▶ この内容は動画でも解説しています:年金84%増のはずが手取りは6割(YouTube)

繰下げ損益分岐の計算機に年金月額を入れると、損益分岐点と「元気なうちに受け取れる額」をその場で確かめられます。入力した内容は保存されません。

この記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の購入を勧めるものではありません。制度や手数料は改定されることがあります。実際のご契約にあたっては、必ずご自身で最新の条件をご確認ください。