誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

年金15万円の振込は13万4千円——天引きされる5つの正体

年金15万円。振り込まれるのは13万4千円です。毎月1万5,600円が、受け取る前に引かれています。手続きの間違いでも計算ミスでもなく、全員に起きていることです。

年金の話はいつも額面で語られますが、暮らしに使えるのは手取りのほうです。その差は年間でおよそ19万円。この記事では、何が引かれているのかを5つに分けて、モデルケースの金額で見ていきます。

▶ この内容は動画でも解説しています:年金から天引きされる5つの正体(YouTube・約11分)

断れない仕組み「特別徴収」

この天引きには「特別徴収」という名前がついています。市区町村が日本年金機構に頼んで、年金から先に差し引いてもらう仕組みで、年金が年18万円以上あれば申し込まなくても自動で始まり、原則やめられません。払う金額が増えるわけではありませんが、選ぶ余地もない、ということです。

知られていない理由は簡単で、年金の通知に大きく書かれているのが額面だからです。引かれた内訳は別の通知で、別の時期に届きます。

モデルケースの前提

  • 65歳男性・会社員として38年勤務し、前年に退職
  • 年金月額15万円(基礎6万8千円+厚生8万2千円)・配偶者あり
  • お住まいは東京都文京区

金額は令和8年度の額と文京区の基準による試算です。税金や保険料は住む場所と所得で変わりますが、引かれる仕組みは同じです。

① 介護保険料——使っていなくても、65歳から全員

介護保険料は65歳になると全員が払います。介護を使っていなくても関係ありません。金額は「所得段階」という区分で決まり、いちばん効くのは住民税が非課税かどうかです。段階の数は自治体ごとに違い、文京区は17段階に分かれています。

この方の介護保険料は年8万4,300円(月約7,000円)。5つの中で2番目に大きい金額です。

② 国民健康保険料——実は5つの中で最大

会社を辞めると国民健康保険に入ります(65〜74歳の期間)。保険料は、人数で決まる「均等割」と、前年の所得で決まる「所得割」の合計です。前年の所得で計算されるため、退職した翌年は働いていた年の給料をもとに計算され、高くなりがちです。

この方の国民健康保険料は年8万6,000円(月約7,200円)。5つの中で最大で、税金よりずっと重いのです。

③ 後期高齢者医療保険料——75歳で自動的に切り替わる

75歳になると、手続きなしで後期高齢者医療制度に切り替わります。「歳を取れば安くなる」は思い込みで、均等割+所得割の考え方は同じ。所得によっては上がることもあります。保険料率は都道府県ごとに決まるため、5つの中で地域差がいちばん大きい項目です。

見落とされがちな「75歳の壁」もあります。移るのは一人ずつなので、夫が75歳になると夫だけが後期高齢者医療へ移り、扶養に入っていた妻は国民健康保険に単独で入り直すことになります。夫の保険料が下がっても、世帯の合計では増えることが起こります。

④ 所得税——5つの中で最小。ただし「秋に届く紙」に注意

年金も所得として扱われますが、「公的年金等控除」が先に差し引かれるため、この方の所得税は年2,500円(月200円ほど)で済んでいます。

ここで大事なのが、毎年秋に日本年金機構から届く「扶養親族等申告書」です。これを出さないと、配偶者控除などの人的控除が受けられないまま計算され、所得税が高くなります。出し忘れても確定申告をすれば戻りますが、黙っていては戻りません。

⑤ 住民税——金額より「非課税の線」が効く

住民税は前年の所得で計算されるため、これも退職の翌年は高くなりやすい項目です。この方は年1万5,000円。所得税と合わせても税金は年1万7,500円で、保険料17万円との差は10倍近くあります。

ただし住民税には金額以上に大事な役割があります。住民税非課税になると、介護保険料の段階が下がり、医療費の自己負担の上限まで下がります。年金の増やし方しだいでこの線をまたぐことがある、というのは以前の記事でお話ししたとおりです。

合計:手取りは額面の約9割

項目年額(モデルケース)
介護保険料84,300円
国民健康保険料86,000円
所得税2,500円
住民税15,000円
合計187,800円(月あたり約15,650円)

額面15万円に対して、手取りは13万4,400円。手取り率は約89.6%です。老後の計画を額面で立てていると、この1割分がまるごとずれます。※国民健康保険と後期高齢者医療は年齢で入れ替わるものなので、同時に払うのは4つです。

減らせないもの・減らせるもの

保険料の3つは制度で決まるため、基本的に動かせません。動かせるのは税金の2つです。申告できる控除には、天引きされた保険料そのものが対象になる社会保険料控除、家族分を合算できる医療費控除扶養控除などがあります。

もうひとつ、年金収入が400万円以下なら確定申告をしなくてよい「確定申告不要制度」がありますが、「不要」=「しないほうが得」ではありません。医療費が多くかかった年などは、申告したほうが戻ることがあります。不要と言われても、一度は計算してみる価値があります。

今日から確かめられること

  1. 秋に届く扶養親族等申告書を、きちんと出しているか
  2. 市区町村から届く保険料の通知を、見たことがあるか
  3. ご自分の世帯が住民税非課税に当たるかどうか

この記事の金額はひとつの例です。年金の額はねんきんネットで、保険料はお住まいの市区町村の窓口で確認できます。

受け取り方を考えるときも「手取り」で

年金を増やす・遅らせるという判断も、額面ではなく手取りと生活の時間で考えると景色が変わります。年金の繰下げ 損益分岐 目安計算では、ご自身の年金月額で「元気なうちに受け取れる額」を確かめられます(計算は額面ベースです)。

この記事は情報提供を目的としたもので、特定の金融商品の購入を勧めるものではありません。制度や手数料は改定されることがあります。実際のご契約にあたっては、必ずご自身で最新の条件をご確認ください。