年金15万円の手取りはいくらか——差し引かれる5つの正体。ひとり暮らし・収入は年金だけ・東京都文京区のモデルで、月平均約13万6,600円(令和8年度)
年金月額15万円。でも、そのまま15万円を使えるとは限りません。介護保険料・健康保険料・住民税などが、年金から差し引かれたり、別に納めたりするからです。
年金の話はいつも額面で語られますが、暮らしに使えるのは手取りのほうです。この記事では、何が引かれるのかを5つに分け、東京都文京区のモデル試算で、税・保険料の年間負担を月平均に直して見ていきます。金額は人によって変わるので、まず前提を置きます。
▶ この内容は動画でも解説しています(動画は配偶者のいる例で試算しているため、金額がこの記事と少し違います)。
モデルケースの前提
- 65歳・ひとり暮らし
- 収入は年金だけ。額面 月15万円(年180万円)で、前年も同じ
- お住まいは東京都文京区。医療保険は国民健康保険
- 令和8年度の保険料率・税率で計算。所得税は令和8年分
年金180万円から公的年金等控除110万円(65歳以上・年金収入330万円以下)を引いた70万円が、この方の所得です。税金や保険料は住む場所・世帯・前年の収入で変わりますが、引かれる仕組みは同じです。
「特別徴収」——年金から先に差し引かれる仕組み
介護保険料・国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)・住民税は、一定の条件を満たすと市区町村の依頼で年金から差し引かれます。これを特別徴収といいます。共通の条件は年金が年18万円以上であることで、国民健康保険料と後期高齢者医療保険料はさらに「介護保険料が特別徴収されていること」「介護保険料との合計が、支払期ごとの年金額の2分の1を超えないこと」が要ります。年18万円以上でも、すべてが必ず天引きされるわけではなく、条件に当たらない分は納付書や口座振替で納めます。
所得税は、これとは別に日本年金機構が源泉徴収する仕組みです。また、年金は原則2か月分ずつ振り込まれるので、「毎月引かれる」のではなく、この記事では年間の負担を12で割った月平均で見ます。4・6・8月と10・12・2月で天引きの額が変わる理由は10月の年金の振込額が8月と違う理由に書きました。
① 介護保険料——使っていなくても、65歳から全員
介護保険料は65歳になると全員が払います。介護を使っていなくても関係ありません。金額は「所得段階」という区分で決まり、いちばん効くのは住民税が非課税かどうかです。段階の数は自治体ごとに違い、文京区は令和8年度で20段階に分かれています。
この方は所得70万円で住民税が課税されるため第6段階(本人が課税で合計所得120万円未満)にあたり、介護保険料は年84,300円(月平均約7,000円)。5つの中でいちばん大きい金額です。
② 国民健康保険料——所得割と均等割、そして軽減
退職後の医療保険は、国民健康保険のほか、退職前の健康保険の任意継続や家族の健康保険の被扶養者になる方法があります。このモデルでは国民健康保険に入ったものとします(65〜74歳)。保険料は、人数で決まる「均等割」と、前年の所得で決まる「所得割」の合計です。前年の所得で計算されるので、退職した翌年は働いていた年の給料をもとに計算され、高くなりがちです(このモデルは前年も年金だけなので、その山はありません)。
この方の場合、所得割は(所得70万円−43万円)×10.58%(基礎分7.51%+後期支援金分2.80%+子ども支援金分0.27%)で約28,600円。均等割は3つの分を合わせて67,073円ですが、所得が基準(43万円+31万円)以下なので5割軽減されて約33,500円。合計年約62,100円(月平均約5,200円)です。
③ 後期高齢者医療保険料——75歳で自動的に切り替わる
75歳になると、手続きなしで後期高齢者医療制度に切り替わります。「歳を取れば安くなる」は思い込みで、均等割+所得割の考え方は同じ。所得によっては上がることもあります。保険料率は都道府県ごとに決まるため、地域によって金額が異なります。
夫婦の場合は「75歳の壁」もあります。移るのは一人ずつなので、夫が75歳になると夫だけが後期高齢者医療へ移り、扶養に入っていた妻は国民健康保険に単独で入り直すことになります。夫の保険料が下がっても、世帯の合計では増えることが起こります。
④ 所得税——このモデルでは0円
年金も所得として扱われますが、公的年金等控除を引いた所得70万円は、令和8年分の基礎控除104万円(合計所得132万円以下の人)より少ないので、所得税は0円です。さらに令和8年分から、65歳以上で所得税の源泉徴収の対象になるのは年金が年205万円以上の人になりました(65歳未満は155万円以上)。年180万円のこのモデルには、源泉徴収そのものがありません。
源泉徴収の対象になる人(65歳以上で年205万円以上)で、配偶者控除や障害者控除などを受ける場合は、毎年秋に日本年金機構から届く「扶養親族等申告書」を出す必要があります。出さないと、控除がないまま源泉徴収されます。出し忘れても、遅れて日本年金機構に提出すればその年の初めにさかのぼって再計算されますし、確定申告をすれば戻ります。黙っていては戻りません。対象にならない人には、この申告書は送られてきません。なお令和9年分(2026年秋に届くもの)からは、所得税がかからない人でも住民税の非課税限度額以上の年金があれば提出が必要になり、届く人が増えました。書き方と出さなくていい人は扶養親族等申告書 令和9年分にまとめました。
⑤ 住民税——金額より「非課税の線」が効く
住民税は前年の所得で計算されます。この方は均等割5,000円(特別区民税3,000円+都民税1,000円+森林環境税1,000円)に、所得割(70万円−基礎控除43万円−社会保険料控除約14.6万円=約12.3万円の10%)から調整控除2,500円を引いた分を足して、年約14,800円。所得税と合わせても税金は年1万5千円弱で、保険料約14.6万円との差は10倍近くあります。
ただし住民税には金額以上に大事な役割があります。住民税非課税(ひとり暮らしなら合計所得45万円以下)になると、介護保険料の段階が下がり、医療費の自己負担の上限まで下がります。年金の増やし方しだいでこの線をまたぐことがある、というのは以前の記事でお話ししたとおりです。
合計:手取りは額面の約91%
- 介護保険料 84,300円
- 国民健康保険料 約62,100円
- 住民税 約14,800円
- 所得税 0円
上の棒は額面を100%、下の棒は引かれる合計(約161,200円)を100%にしています。
| 項目 | 年額(試算) | 根拠 |
|---|---|---|
| 介護保険料 | 84,300円 | 文京区 第6段階(本人課税・合計所得120万円未満) |
| 国民健康保険料 | 約62,100円 | 所得割 約28,600円+均等割67,073円の5割軽減 約33,500円 |
| 住民税 | 約14,800円 | 均等割5,000円+所得割約12,300円−調整控除2,500円 |
| 所得税 | 0円 | 所得70万円は基礎控除104万円以下。源泉徴収の対象(年205万円以上)にも当たらない |
| 合計 | 約161,200円(月平均約13,400円) | 額面150,000円 → 手取り月平均約13万6,600円(約91%) |
老後の計画を額面で立てていると、この1割分がまるごとずれます。配偶者の有無・前年の収入・住む自治体で、同じ額面でも手取りは数千円単位で動きます。※国民健康保険と後期高齢者医療は年齢で入れ替わるため、同時に対象になり得るのは最大4種類です。このモデルで実際に負担するのは、介護保険料・国民健康保険料・住民税の3種類です。
減らせないもの・減らせるもの
保険料は制度にもとづいて決まり、任意に減らすことはできません。一方、所得税・住民税は、適用できる所得控除を漏れなく申告すると税額が下がる場合があります。申告できる控除には、払った保険料そのものが対象になる社会保険料控除、家族分を合算できる医療費控除、扶養控除などがあります。
もうひとつ、公的年金等の収入が年400万円以下で、かつ年金以外の所得が20万円以下なら、所得税の確定申告をしなくてよい「確定申告不要制度」があります。ただし「不要」=「しないほうが得」ではありません。医療費が多くかかった年などは、申告したほうが戻ることがあります。また、所得税の申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合があります。不要と言われても、一度は計算してみる価値があります。
今日から確かめられること
- 市区町村から届く保険料の決定通知を、見たことがあるか(介護保険料の段階と、国保の軽減の有無が書いてあります)
- ご自分の世帯が住民税非課税に当たるかどうか(住民税非課税ライン判定)
- 年金が年205万円以上なら、秋に届く扶養親族等申告書を出しているか
ご自身の額面で同じ計算をするには、年金の手取り計算をどうぞ。この記事と同じ式・同じ料率で、75歳以上(後期高齢者医療)にも対応しています。
この記事の金額はひとつの例です。年金の額はねんきんネットで、保険料はお住まいの市区町村の窓口で確認できます。
受け取り方を考えるときも「手取り」で
年金を増やす・遅らせるという判断も、額面ではなく手取りと生活の時間で考えると景色が変わります。年金の繰下げ 損益分岐 目安計算では、ご自身の年金月額で「元気なうちに受け取れる額」を確かめられます(計算は額面ベースです)。
このテーマをまとめて読む:年金のまとめ
出典
- 文京区「保険料の計算方法」(令和8年度 国民健康保険料:基礎分 所得割7.51%・均等割47,600円、後期支援金分2.80%・17,600円、子ども支援金分0.27%・1,873円〈18〜74歳〉。算定基礎額=令和7年中の総所得金額等−43万円) (2026年9月19日確認)
- 文京区「保険料の軽減」(均等割の軽減:7割=43万円以下、5割=43万円+31万円×被保険者数以下、2割=43万円+57万円×被保険者数以下) (2026年9月19日確認)
- 文京区「介護保険料額について」(令和8年度は20段階。第6段階〈本人が住民税課税で合計所得金額120万円未満〉年額84,300円、第5段階〈基準額〉73,300円) (2026年9月19日確認)
- 文京区「住民税の計算」(均等割 特別区民税3,000円+都民税1,000円+森林環境税1,000円、所得割6%+4%、調整控除、単身は合計所得45万円以下で非課税) (2026年9月19日確認)
- 国税庁 タックスアンサー「No.1199 基礎控除」(合計所得132万円以下:令和7年分95万円・令和8年分104万円) (2026年9月19日確認)
- 日本年金機構 Q&A「年金から特別徴収される保険料等の対象者」(年18万円以上、国保・後期高齢者医療保険料は介護保険料が特別徴収されていることが前提で、介護保険料との合計が支払期ごとの年金額の2分の1を超える場合は対象外) (2026年9月19日確認)
- 日本年金機構「令和8年分 公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」(源泉徴収の対象は65歳以上 年205万円以上・65歳未満 年155万円以上。対象とならない方には申告書を送付しない) (2026年9月19日確認)
- 国税庁 タックスアンサー「No.1600 公的年金等の課税関係」(公的年金等控除、確定申告不要制度=公的年金等の収入400万円以下かつ他の所得20万円以下) (2026年9月19日確認)
