誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

事実婚のふたりの施設選び——「ご家族ですか」と聞かれる前に、整えておく3つのこと

知人に、籍を入れずに長く連れ添っているご夫婦がいます。60代のおふたりです。施設のパンフレットを前に、こうつぶやいたそうです。「私たちの場合、どうなるんだろう」。

施設選びの情報は、たいてい法律婚の夫婦か、おひとりの方を前提に書かれています。でも実際には、事実婚のご夫婦、パートナーと暮らす方、籍を入れ直さなかった再婚のおふたり——いろいろな形があります。

先に結論を言うと、事実婚だから施設に入れない、ということはありません。ただ、法律婚なら黙っていてもついてくる「家族の扱い」が、場面ごとに確認と準備のいる事項になります。この記事では、その場面を3つに整理します。

① 身元引受人——「ご家族の署名を」と言われたら

総務省の2023年の報告書が引用する過去の調査では、病院や高齢者施設の9割超が、入院・入所のときに身元保証人・身元引受人など本人以外の署名を求めていました。まずここが最初の関門です。

パートナーが身元引受人になれるかどうかは、施設によります。親族に限る施設もあれば、続柄を問わない施設もあります。だから見学のときに、率直に聞いてください。前回の記事で「見学で聞く3つの質問」を紹介しましたが、事実婚のおふたりには4つ目の質問があります——「事実婚のパートナーは、身元引受人になれますか」

あわせて知っておいてほしいことが2つあります。

  • 病院や介護保険施設(特養・老健・介護医療院)については、身元保証人がいないことだけを理由に入院・入所を拒むのは適切でないと国が示しています。「保証人がいないなら無理です」と言われても、それが最終回答ではありません。地域包括支援センターに相談してください。民間の有料老人ホームなどは契約条件が異なるため、施設ごとに個別に確認を。
  • 民間の身元保証サービス(高齢者サポート事業)もあります。ただし料金体系が分かりにくい、事業者が破綻したときに預けたお金が戻らないなどのトラブルが報告されており、国も調査・注意喚起をしています。使う場合は、契約内容とお金の管理方法を細かく確かめてから。

② 医療の説明と意思決定——「家族等」にパートナーは入るか

入院や手術のとき、病状の説明や意思決定の支援は「ご家族」に、という場面が出てきます。ここで心細くなる方が多いのですが、国のガイドライン(身寄りがない方の入院・医療に関するもの)では、本人を支える「家族等」を戸籍上の親族に限らず、事実婚のパートナーや親しい友人を含む広い意味で示しています。

とはいえ、その場その場で関係を説明するのは大変です。だから先に形にしておきます

  • 住民票をひとつの世帯にして、続柄の記載を相談する——同一世帯にし、自治体の要件を満たせば、続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」と記載できる場合があります。この住民票は事実婚関係を示す資料の一つになり、あとで出てくる年金の手続きでも役に立ちます。ただし、それだけですべての制度で事実婚と認定されるわけではありません。
  • 施設や病院の書類の緊急連絡先・キーパーソン欄にパートナーを書く——書面に残っていることが、いちばんの説明になります。
  • 元気なうちに、医療について望むこと・意思を推定するときに話を聞いてほしい人を書面に残しておく——パートナーも医療者も動きやすくなります。ただし、この書面や任意後見契約によって、パートナーに医療行為への法的な同意権が与えられるわけではありません。任意後見契約は、施設との契約や費用の支払い、財産管理などに備える制度です(公証役場で相談できます)。

なお、面会の扱いは病院・施設ごとの規則によります。「家族等」に含まれることが、そのまま面会の保障になるわけではないので、入院・入所の前に確認しておきましょう。

③ お金——事実婚が「効く」制度と「効かない」制度

ここがいちばん誤解の多いところです。制度によって、事実婚の扱いは正反対になります。

効く(配偶者として扱われうる)

  • 遺族年金——事実婚でも、生計を共にしてきた関係が認定されれば対象になり得ます。「事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書」に、住民票(未届の記載)などの証明を添えて、個別に判断されます。将来のことは、年金事務所で事前に相談できます。
  • 介護保険の食費・居住費の軽減(負担限度額認定)——制度上、判定に使う「配偶者」には事実婚の相手を含むとされています。パートナーの住民税の課税状況に加え、おふたりの預貯金等も判定に入ります。状況によって有利にも不利にも働くので、市区町村の窓口で確認してください。

効かない(法律婚だけのもの)

  • 相続——事実婚のパートナーに相続権はありません。遺言がなければ、亡くなった方の名義の家や預金は、戸籍上の相続人(子・親・きょうだいなど)が相続します。
  • 税の配偶者の優遇——配偶者控除や、相続税・贈与税の配偶者向けの軽減も対象外です。

だから事実婚のおふたりには、遺言がほぼ必須です。施設への入居は、住まいとお金が大きく動く節目。入居を考え始めたときが、遺言を整えるいちばん自然なタイミングです(公正証書遺言のほか、自筆の遺言書を法務局に預ける制度もあります)。

整えておく「3点セット」

  1. 住民票——同一世帯にし、自治体の要件を満たせば続柄を「夫(未届)/妻(未届)」に(事実婚を示す資料の一つになります)
  2. 遺言——パートナーに残したいものを書面に(公正証書または法務局の保管制度)
  3. 緊急連絡先と意思表示の書面——キーパーソンはパートナーだと、先に形にしておく

この3つは、施設に入るかどうかに関係なく、整えた日から効き目のあるお守りです。そして見学に行くなら、4つ目の質問——「事実婚のパートナーは身元引受人になれますか」——を忘れずに。

なお、身元引受人・医療の意思表示・遺言の話は、おひとりさまにも重なります。パートナーの部分を「信頼できる人」に読み替えてみてください。ただし、遺族年金や介護保険の「配偶者」の扱いは事実婚の関係にある方に限られ、ご友人には適用されません。

あわせて読む・確かめる

施設の種類から整理したい方は8種類の見取り図、「入った後」の不安には見学で聞く3つの質問をどうぞ。負担限度額の入口になる住民税非課税ライン 判定もあります。

事実婚・おひとりさまの施設選びで「ここが知りたい」があれば、質問・リクエスト箱から教えてください。

出典

施設の入居条件・費用・サービスは、施設や自治体によって大きく異なります。契約の前に必ず書面(重要事項説明書など)で確認し、迷ったときは地域包括支援センターや担当のケアマネジャーにご相談ください。