相続放棄の手続き——借金が多いときは、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ。費用は収入印紙800円と郵便切手。財産に手をつけると放棄できなくなることも。次の順位の親族にも知らせる
親が亡くなったあと、借金の督促状が届いた。財産より借金のほうが多そうだ——。そんなときに使えるのが相続放棄です。ただし、期限があり、やってはいけないこともあります。
この記事は、相続放棄の手続きを、裁判所の案内と民法にそってまとめたものです。相続全体の流れは、家族が亡くなったあとの手続きで期限の順に並べています。
相続の3つの選び方
| どうなるか | 手続き | |
|---|---|---|
| 単純承認 | 財産も借金も、すべて受け継ぐ | 特になし(3か月以内に放棄や限定承認をしなければ、単純承認したとみなされます) |
| 相続放棄 | 財産も借金も、一切受け継がない。初めから相続人でなかったことになる | 3か月以内に家庭裁判所へ申述。1人でもできる |
| 限定承認 | 受け継いだ財産の範囲で、借金を払う | 3か月以内に家庭裁判所へ申述。相続人全員が一緒にする必要があり、財産の目録も作る |
家庭裁判所の統計では、相続放棄の申述(新しく受け付けた件数)は、2019年(令和元年)の225,416件から、2025年(令和7年)には323,524件に増えています。
手続きの流れ
- 財産と借金を調べる財産には手をつけない預金、不動産、借金の督促状やカードの明細などから。相続を承認するか放棄するかを決める前に、財産を調べることは法律で認められています。
- 家庭裁判所に申述する知った時から3か月以内亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所へ。3か月で調べきれないときは、期限内に期間を延ばす申立てもできます。
- 裁判所からの問い合わせに答える書面での照会などがあります(裁判所によって違います)。
- 受理される目安は約1か月受理されたら、借金の請求をしてきている相手に知らせます。証明書がほしいときは、受理証明書(1件150円)を申請します。
- 次の順位の親族に知らせる同じ順位の相続人が全員放棄すると、次の順位の人が相続人になります。
裁判所「相続の放棄の申述」、名古屋家庭裁判所の案内などをもとに作成。期間の目安は裁判所や事情によって違います。
申述のしかた
- 期限:自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内(民法第915条)。亡くなったこと、そして自分が相続人になったことを知った時から数えます。
- 申述先:亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所
- 費用:申述する人1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに違います)
- 主な書類:申述書、亡くなった人の住民票の除票(または戸籍の附票)、申述する人の戸籍謄本。亡くなった人との関係によって、死亡の記載のある戸籍や、出生から死亡までの戸籍などが追加で必要です。すでに先の順位の人が出した書類は、出さなくてよい場合があります
期間を延ばす:財産を調べても3か月で決められないときは、3か月以内に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を家庭裁判所に申し立てられます(1人につき収入印紙800円分と郵便切手)。
いったん放棄すると、原則として撤回できません:相続の承認や放棄は、3か月の期間内でも撤回できないと定められています(民法第919条)。だまされたり脅されたりして放棄した場合などは、法律の定めにより取り消せることがありますが、そのときは弁護士などに相談してください。財産と借金をよく調べてから決めてください。
放棄できなくなる「処分」に注意
民法は、次のような場合、相続を単純承認したものとみなすとしています(第921条)。そうなると、相続放棄は認められません。
- 相続財産の全部または一部を処分したとき(財産の価値を保つための「保存行為」などは除く)
- 3か月以内に、限定承認も相続放棄もしなかったとき
- 放棄したあとでも、相続財産を隠したり、勝手に使ったりしたとき
たとえば、亡くなった人の預金を引き出して使う、不動産や車を売る、といったことは「処分」に当たるおそれがあります。名古屋家庭裁判所は、遺産の一部を処分したときは相続を承認したとみなされ放棄は認められない、としつつ、処分した内容や理由によっては受理されることもある、と説明しています。どこまでが処分に当たるかは事情によります。迷ったら、手をつける前に、家庭裁判所や弁護士・司法書士に相談してください。
3か月を過ぎてしまったら
裁判所は、借金を含めて相続財産がまったくないと信じ、そう信じたことに相当な理由があるときなどは、財産の存在を知った時から3か月以内に申述すれば、受理されることもある、と説明しています(最高裁判所の昭和59年4月27日の判決の考え方)。期限を過ぎてから借金が分かったときも、あきらめずに早めに相談してください。
次の順位の親族に、知らせておく
相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになります(民法第939条)。同じ順位にほかの相続人がいれば、その人が相続します。同じ順位の相続人が全員放棄して、その順位の相続人がいなくなると、次の順位の人が相続人になります。配偶者は、順位とは別に、いつも相続人です。
| 順位 | 相続人 |
|---|---|
| いつも | 配偶者(夫・妻) |
| 第1順位 | 子(子が亡くなっていれば孫) |
| 第2順位 | 父母(いなければ祖父母) |
| 第3順位 | きょうだい(亡くなっていれば、おい・めい) |
子が全員放棄すると、亡くなった人の父母が、父母がいなければ祖父母などの直系尊属が相続人になります。それらの人もいない(または全員放棄した)ときは、きょうだいが相続人になります。先の順位の人の放棄が受理されないと、次の順位の人は放棄の申述ができません。借金の請求が突然、きょうだいやおい・めいに届くこともあるので、放棄したら、次の順位の親族に知らせておくと、相手も期限内に判断できます。
相続人や債権者は、ある人が相続放棄をしたかどうかを、家庭裁判所に照会できる仕組みもあります(名古屋家庭裁判所の案内では、照会の手数料は不要)。
放棄しても、関係があること・ないこと
- 死亡保険金:受取人として指定されている保険金について、国税庁は、相続を放棄した人が受け取った死亡保険金には、相続税の非課税の枠(500万円×法定相続人の数)が使えない、としています。
- 未支給年金:亡くなった人がまだ受け取っていなかった年金は、生計を同じくしていた遺族が自分の権利として請求するもので、相続財産ではないとされています(国税庁、最高裁判所の平成7年の判決)。
- 家や土地の管理:放棄したときに、相続財産を現に占有している人は、ほかの相続人などに引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存しなければなりません(2023年4月からの民法第940条)。
いらない土地だけを手放したいときは、相続したうえで国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」もあります(相続土地国庫帰属制度)。相続放棄は、財産も借金もすべて受け継がない仕組みなので、目的に合わせて選んでください。
チェックリスト
- 亡くなったことと、自分が相続人になったことを知った日をメモした
- 財産と借金を調べた(その間、預金を使う・物を売るなどはしない)
- 3か月以内に、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に申述する(決めきれないなら、期間の伸長を申し立てる)
- 受理されたら、借金の請求をしてきた相手に知らせる
- 次の順位の親族に、放棄したことを知らせた
- 迷うところは、家庭裁判所や弁護士・司法書士に相談した
相続の手続きを、順番に
期限の順に並べた全体像は家族が亡くなったあとの手続き、税金は亡くなった親の確定申告(準確定申告)、いらない土地は相続土地国庫帰属制度、売れない実家は売れない実家の出口、スマホやネットの契約はデジタル遺品へ。
「うちの場合はどうなる?」という疑問は、質問・リクエスト箱から教えてください。
出典
- 裁判所「相続の放棄の申述」(相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所、収入印紙800円分〈申述人1人につき〉、連絡用の郵便切手、必要書類、先順位相続人等から提出済みのものは添付不要) (2026年10月9日確認)
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」(3か月の熟慮期間を伸長できる、収入印紙800円分、3か月以内に申立て) (2026年10月9日確認)
- 裁判所「相続の限定承認の申述」(相続人全員が共同して行う必要) (2026年10月9日確認)
- 裁判所「家事事件Q&A」(相続財産が全くないと信じ相当な理由があるときなどは、存在を認識したときから3か月以内に申述すれば受理されることもある、受理後は債権者に連絡、受理証明書は150円分の収入印紙) (2026年10月9日確認)
- 名古屋家庭裁判所 相続放棄の申述の案内(PDF。手続の流れ〈書面照会など〉、受理まで約1か月が目安、遺産の一部を処分したときは承認したとみなされるが処分の内容・理由によっては受理されることもある、先の順位の放棄が受理されなければ後の順位は申述できない)※家庭裁判所の例 (2026年10月9日確認)
- 名古屋家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の受理の有無の照会」(照会手数料は不要)※家庭裁判所の例 (2026年10月9日確認)
- 最高裁判所「司法統計年報(家事編)令和7年」(相続の放棄の申述の受理 新受 令和元年225,416件〜令和7年323,524件) (2026年10月9日確認)
- 最高裁判所 昭和59年4月27日判決(民集38巻6号698頁。相続財産が全く存在しないと信じ、相当な理由がある場合の熟慮期間の起算点) (2026年10月9日確認)
- e-Gov法令検索「民法」(第887条・第889条・第890条 相続人、第915条 3か月・伸長・調査、第919条 撤回できない〈2項 他の規定による取消しは妨げない〉、第921条 法定単純承認、第922条〜第924条 限定承認、第938条 申述、第939条 初めから相続人とならなかったものとみなす、第940条 現に占有している財産の保存) (2026年10月9日確認)
- 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」(相続の放棄の時に現に占有している相続財産を引き渡すまで保存、令和5年4月1日施行) (2026年10月9日確認)
- 国税庁 タックスアンサーNo.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」(非課税の適用は受取人が相続人〈相続を放棄した人や相続権を失った人は含まれない〉である場合) (2026年10月9日確認)
- 国税庁 質疑応答事例「未支給の国民年金に係る相続税の課税関係」(遺族が自己の固有の権利として請求、最高裁平成7年11月7日判決で相続性が否定) (2026年10月9日確認)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度について」 (2026年10月9日確認)