売れない実家の出口——仲介・空き家バンク・訳あり物件の買取・国庫帰属・寄附を比べる。800万円以下の空き家は仲介手数料の特例あり、買取業者への売却はクーリング・オフできない
親から相続した実家。住む予定はないし、売ろうとしたら「この値段では難しい」「この家は扱えない」と言われた——そんな「売れない実家」には、いくつかの出口があります。
この記事は、出口を並べて比べるためのものです。固定資産税の軽減が外れる話や相続登記の期限は実家が空き家になったらに、国に引き取ってもらう制度の詳細は相続した土地を国に引き取ってもらうに書きました。
出口の一覧
| 出口 | 向いている家・土地 | お金の目安 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 仲介(不動産会社に買い手を探してもらう) | ふつうに住める・建て直せる家 | 仲介手数料(上限あり。800万円以下は特例) | 買い手が見つかるまで時間がかかることがある |
| 空き家バンク | 地方の家。売値より「使ってくれる人がいるか」の家 | 自治体ごとに違う | 自治体によって運営のしかたが違う |
| 訳あり物件の買取 | 共有持分、再建築不可、借地、事故物件、荷物が残った家など | 業者が買主になる。価格は相場より低くなりやすい | 自宅を業者に売った場合はクーリング・オフできない。複数社で比べる |
| 相続土地国庫帰属 | 建物を壊した更地で、境界がはっきりした土地 | 手数料1筆14,000円+負担金(基本20万円。市街化区域などの宅地は面積で計算し、100㎡で約55万円) | 建物があると申請できない。審査は標準8か月 |
| 自治体への寄附 | 自治体が使う予定のある土地 | — | 受入条件しだい。使う予定や売却の見込みがない土地は受けない自治体がある |
| 相続放棄 | 財産全体より借金などが多いとき | — | 実家だけでなく相続全体を手放す。期限は原則、相続の開始と自分が相続人になったことを知った時から3か月以内。売却や解体の前に判断を |
順番の目安は、①権利関係を確かめる → ②仲介と空き家バンクで売れるか試す → ③だめなら買取や国庫帰属を比べるです。どの出口でも、名義が亡くなった親のままでは進められないことが多いので、まず相続登記を確かめてください。
ただし、相続放棄を考えるなら、売却や解体を進める前に弁護士や司法書士に相談してください。相続した財産を売るなどして処分すると、相続を認めた(単純承認した)ものとみなされ、放棄できなくなることがあります。放棄の期限は原則として、相続の開始と自分が相続人になったことを知った時から3か月以内です(家庭裁判所に期間の延長を申し立てることもできます)。
① 仲介——安い空き家は手数料の特例ができた
不動産会社に買い手を探してもらう方法です。売れたときに払う仲介手数料には、国の告示で上限があります。
- ふつうの上限(税込)——売買価格のうち200万円以下の部分は5.5%、200万円超400万円以下の部分は4.4%、400万円を超える部分は3.3%。たとえば1,000万円の家なら、上限は39.6万円です
- 800万円以下の家・土地の特例(2024年7月から)——仲介に要する費用を考えて、依頼者の一方(売主または買主)から税込33万円まで受け取れます。空き家かどうか、使っているかどうかは問いません。ただし不動産会社は、契約のときにあらかじめ報酬額を説明し、依頼者と合意する必要があります
たとえば300万円の家なら、ふつうの計算の上限は15.4万円ですが、特例では33万円までになります。売る側の負担は増えることがありますが、安い空き家でも不動産会社が扱いやすくなるようにする見直しです。手数料の額は、契約の前に必ず確かめてください。
② 空き家バンク——地方の家の出口
市区町村が、空き家を売りたい・貸したい人と、買いたい・借りたい人をつなぐ仕組みです。国土交通省が選んだ2社が運営する「全国版空き家・空き地バンク」では、各地の物件をまとめて探せます。2026年8月末時点で1,151自治体が参加し、744自治体が物件を掲載中、自治体へのアンケートなどによると約27,000件が成約しています。
まずは実家のある市区町村の空き家担当に、空き家バンクがあるか、登録の条件は何かを聞いてみてください。
③ 訳あり物件の買取——早く手放せる代わりに、価格は低くなりやすい
共有者が多い、建て直しができない、借地の上に建っている、荷物がそのまま残っている——ふつうの仲介では買い手がつきにくい家を、業者が自分で買い取る方法です。不動産流通推進センターの相談事例では、買取は早く売れて確実性も高い一方、依頼者には価格の水準を十分に説明し、了解を得る必要があるとされています。
気をつけたいことが3つあります。
- クーリング・オフはできない——国民生活センターは、消費者が自宅を不動産業者に売った場合、クーリング・オフはできないと注意を呼びかけています。「業者が示した価格で契約し、後で調べたら相場より安かった」という苦情も紹介しています。その場で契約しない、複数の業者に査定を頼んで比べるが基本です
- 「売るために、先にお金を」と言われたら疑う——国民生活センターは、土地を売るためと言って測量費や広告費、手数料などの名目で先にお金を払わせる手口(原野商法の二次被害)に注意を呼びかけています
- 契約書を読む——引き渡しの時期、残った荷物の扱い、契約後に不具合が見つかった場合の責任を、書面で確かめます
訳あり物件の買取業者の例には、訳あり不動産の買取サービス(ワケガイ)(PR)があります。運営会社の案内では、共有持分・再建築不可・借地・事故物件・空き家などを全国47都道府県で買い取るとしていて、査定は無料、荷物が残ったままでも買い取れる場合があるとしています。使うときも、ほかの業者の査定と比べてから決めてください。
④ 国庫帰属——更地で、境界がはっきりしていれば
相続した土地を、審査を経て国に引き取ってもらう制度です。建物がある土地は申請できないので、家ごと手放すことはできません。解体費は自己負担で、解体業者の探し方には、自治体の案内や知人の紹介のほか、全国対応の解体工事の紹介サービス(解体工事110番)(PR)のような窓口もあります。ただし、壊しても境界や樹木などほかの要件で承認されないことがあるので、解体を決める前に法務局の事前相談で確かめてください。費用・要件・実績は相続した土地を国に引き取ってもらうにまとめています。
⑤ 自治体への寄附——受けるかは自治体の条件しだい
「タダでいいから市にもらってほしい」と考える方もいますが、寄附を受けるかどうかは自治体ごとの受入条件しだいで、使う予定や売却の見込みがない土地は受けない自治体があります。たとえば岩手県北上市は、市として使う予定のない土地は維持管理のコストが増えるため受け入れていないとし、建物が付いている土地も受けられない例に挙げています。新潟市も、行政で活用する価値か、売って換金する価値が見込まれるものに限るとしています。
ただ、国庫帰属制度の申請のあと、本人が同意すれば、法務局が自治体などに寄附を受けられるかを確認する仕組みもあります。実際、国庫帰属の申請の取下げのうち半分ほどは、自治体や隣の土地の所有者が引き受けるなど「有効活用の見込みが生じた」ためでした。
共有の実家——2023年の民法改正で、動かしやすくなった
兄弟姉妹で相続した家や、何代も前の名義のまま共有者が増えた家は、全員がそろわないと売れないのが悩みです。2023年4月1日に施行された民法の改正で、次のことができるようになりました。
- 必要な調査をしても氏名や所在が分からない共有者の持分を、裁判所の手続きを経て、ほかの共有者が取得したり、全体を売るために譲渡したりできる(返事をしないだけの共有者は対象ではありません。異議の届出期間や、時価相当額の供託などが必要。遺産分割が済んでいない遺産共有の場合は、相続開始から10年たってから)
- 形や効用を大きく変えない軽い変更は、持分の過半数で決められる
このほか、民法は、各共有者はいつでも共有物の分割を請求できると定めています。話し合いがまとまらないときの手続きは、弁護士や司法書士に相談してください。自分の持分だけを買取業者に売ることもできますが、ほかの共有者との関係が変わることもあるので、話し合える家族がいるなら先に話しておくのがおすすめです。
売れたら——相続した空き家の3,000万円控除
相続した実家を売って利益(譲渡所得)が出たときは、一定の条件を満たすと、最高3,000万円(その家と敷地を相続・遺贈で取得した相続人が3人以上なら2,000万円)を差し引ける特例があります。主な条件は次のとおりです。
- 昭和56年5月31日以前に建てられた家(マンションなどの区分所有建物は対象外)
- 相続の直前に、亡くなった人のほかに住んでいた人がいない(老人ホームなどに入所していた場合は、一定の要件を満たせば対象)
- 家は相続から売却(または取壊し)まで、敷地は相続から売却まで、貸したり、住んだり、事業に使ったりしていない。取り壊した場合は、その後売却まで、建物や構築物の敷地としても使っていない——空き家バンクなどで貸すと、この特例は使えなくなります
- 相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る。特例自体は2027年12月31日までの売却が対象
- 売却代金が1億円以下
- 耐震改修をするか、取り壊してから売る。2024年からは、買主が翌年2月15日までに耐震改修や取壊しをした場合も対象
特例を受けるには、必要な書類を添えて確定申告をします。「期限の3年」は、出口を考え始めるきっかけにもなります。細かい要件は税務署か税理士に確認してください。
今日できること
- 実家の登記の名義と、共有者が何人いるかを確かめる
- 相続が始まった日から数えて、3,000万円控除の期限をメモする
- 地元の不動産会社に仲介の査定を頼み、市区町村に空き家バンクを聞く
- 仲介で難しいと言われたら、買取業者の査定を複数取り、国庫帰属が使えるかも法務局に相談する
- どの出口でも、その場で契約しない。先にお金を払えと言われたら断る
実家と土地のことを、順番に
固定資産税・相続登記・売却の特例は実家が空き家になったら、国に引き取ってもらう制度は相続した土地を国に引き取ってもらう、中の片づけは実家じまいの順番、庭の手入れは庭と雑草の手入れへ。相続税がかかるかは相続税の基礎控除 計算で。
「うちの実家はこうした」という話は、質問・リクエスト箱から教えてください。
このテーマをまとめて読む:老後資金のまとめ
出典
- 国土交通省告示「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(最終改正 令和6年6月21日・令和6年7月1日施行:200万円以下5.5%・200万円超400万円以下4.4%・400万円超3.3%〈税込〉、800万円以下の宅地・建物は媒介に要する費用を勘案して30万円の1.1倍まで) (2026年9月29日確認)
- 国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」(低廉な空家等の特例:依頼者の一方〈売主若しくは買主〉から受領できる仲介手数料の上限は30万円×1.1倍、使用の状態は問わない) (2026年9月29日確認)
- 国土交通省 報酬告示の改正に伴う解釈・運用の考え方の資料(令和6年7月1日施行:特例の上限の範囲内で媒介に要する費用を勘案して受領可、あらかじめ報酬額について依頼者に説明し合意する必要) (2026年9月29日確認)
- 国土交通省「全国版空き家・空き地バンク」概要(令和8年8月末時点:1,151自治体が参加、744自治体が掲載中、自治体へのアンケート調査等によると約27,000件が成約) (2026年9月29日確認)
- 国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」(選定された2社が平成30年4月から本格運営) (2026年9月29日確認)
- 不動産流通推進センター 相談事例「媒介依頼を受けた不動産を、宅建業者が買い取り、転売することの是非」(買取は早期に売却可能で確実性も高い、依頼者へは価格水準を十分説明し了解を得る必要) (2026年9月29日確認)
- 国民生活センター 報道発表(令和3年6月24日:消費者が所有する自宅を不動産業者に売却した場合クーリング・オフはできない、後で相場より安価と分かって納得できないという苦情) (2026年9月29日確認)
- 国民生活センター 見守り情報「土地売却のため? 金銭を請求されたら要注意 原野商法の二次被害」(土地を売るためと言って測量費や広告費、手数料など様々な名目で金銭を支払わせる手口) (2026年9月29日確認)
- 北上市「土地の寄付について」(市として使用する予定のない土地等は維持管理コストが増大するため受け入れていない、建物等が付属する土地は受けられない例)※自治体の例 (2026年9月29日確認)
- 新潟市「土地の寄附について」(行政活用価値又は換価価値が見込まれるもの、建物等が付属する土地は不可)※自治体の例 (2026年9月29日確認)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」(手放す方法としての寄附、承認申請後は本人の同意がある場合に地方公共団体等へ寄附受けの可能性を確認) (2026年9月29日確認)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年8月31日現在:取下げ1,139件のうち有効活用の見込みが生じた586件) (2026年9月29日確認)
- 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」(令和8年4月版:軽微な変更は持分の過半数、所在等不明共有者の持分取得は3か月以上の異議届出期間・時価相当額の供託、原則令和5年4月1日施行) (2026年9月29日確認)
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の概要(詳細版)」(負担金は原則20万円、市街化区域等の宅地は面積に応じて算定、100㎡で約55万円) (2026年9月29日確認)
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」(熟慮期間は相続の開始があったことを知った時から3か月以内、家庭裁判所に伸長を申し立てられる) (2026年9月29日確認)
- 民法 第256条(各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる)、第262条の2・第262条の3(所在等不明共有者の持分の取得・譲渡、遺産共有は相続開始から10年経過後)、第915条(3か月の熟慮期間)、第921条(相続財産の処分による単純承認) (2026年9月29日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(令和8年4月1日現在:昭和56年5月31日以前建築、区分所有建物は対象外、相続の開始の直前に被相続人以外の居住者がいない〈老人ホーム等の特例あり〉、相続の時から譲渡の時まで事業・貸付け・居住の用に供していない、確定申告が必要、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、令和9年12月31日までの譲渡、売却代金1億円以下、被相続人居住用家屋と敷地等を取得した相続人が3人以上なら2,000万円、取壊し後は譲渡まで建物・構築物の敷地として使っていないこと、翌年2月15日までの買主による耐震改修・取壊し) (2026年9月29日確認)
- ワケガイ(株式会社ネクスウィル)公式サイト(共有持分・再建築不可・借地・事故物件・空き家などの訳あり物件の買取、全国47都道府県で買取可能)※事業者の案内 (2026年9月29日確認)
- ワケガイ(株式会社ネクスウィル)「よくあるご質問」(査定は無料・現地調査も無料、荷物が残ったままでも買取可能)※事業者の案内 (2026年9月29日確認)