誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

老後資金はいくら必要か——「2,000万円」の中身は月5.5万円×30年でした。2025年の平均は夫婦で月4.2万円・単身で月3万円の不足。平均ではなく、自分の数字で出す手順

「老後資金は2,000万円必要」と聞いて、不安になった方は多いと思います。あの数字は、2019年に金融庁の審議会がまとめた報告書に出てくるもので、中身は単純な掛け算です。2017年の家計調査で、65歳以上の夫婦のみの無職世帯は毎月約5.5万円の赤字だった。それが30年続くと約2,000万円になる。それだけの話で、「全員に2,000万円が要る」という意味ではありません。20年なら約1,300万円、と同じ報告書に書いてあります。

この記事では、同じ計算を2025年の数字でやり直し、そのうえで「平均」ではなく「自分の数字」で老後資金を出す手順を整理します。

2025年の平均——夫婦で月4.2万円、単身で月3万円の不足

総務省の家計調査(2025年平均)によると、65歳以上の無職世帯の1か月の家計は次のとおりです。

夫婦のみの無職世帯(65歳以上)単身の無職世帯(65歳以上)
実収入(うち年金などの社会保障給付)254,395円(228,614円・89.9%)131,456円(120,212円・91.4%)
税金・社会保険料(非消費支出)32,850円12,990円
可処分所得(手取り)221,544円118,465円
消費支出263,979円148,445円
不足分(貯蓄からの取り崩し)42,434円29,980円

数字の上では、2017年の月約5.5万円が2025年は月約4.2万円になっています。ただし2018年に家計簿の様式が変わっており、総務省も改正前後の単純な比較には注意を求めています。物価や支出の内訳、調査対象の世帯の構成でも動く数字で、数年後にはまた変わります。「◯万円」という一つの数字より、収入と支出の差×年数という考え方のほうが長持ちします。

何年分か——65歳の平均余命は男19.68年、女24.52年

厚生労働省の令和7年簡易生命表では、65歳の平均余命は男性19.68年、女性24.52年です。夫婦なら、長く生きる可能性が高い妻の余命を目安にするのが安全側です。平均の不足額に年数を掛けると、次のようになります。

年数夫婦(月42,434円)単身(月29,980円)
20年約1,018万円約720万円
25年約1,273万円約899万円
30年約1,528万円約1,079万円

これが「2025年版の2,000万円」です。ただし、ここまでの数字には2つの落とし穴があります。

  • 平均には、持ち家の人も賃貸の人も、元気な人も介護中の人も混ざっています。家計調査の「住居」費(家賃・地代・修繕費)は2025年平均で夫婦17,739円、単身11,416円です。持ち家世帯を含む平均なので、賃貸の方は実際の家賃に置き換えて考えてください。
  • まとまって出るお金は、平均の月額からは読み取れません。介護、入院、家の修繕、車の買い替え、冠婚葬祭。一部は平均の月額に含まれていますが、支出しなかった世帯も含めた平均なので、自分にいつ・いくら発生するかは見えません。別枠の予備費として見積もります。

自分の数字で出す——4つの段階

① 年金の見込み額を確かめる

まず収入です。50歳以上の方は、毎年誕生月に届くねんきん定期便に「老齢年金の見込額」が載っています。50歳未満の方は、ねんきんネットで条件を入れて試算できます。参考までに、令和6年度末の老齢年金の平均月額は、厚生年金の受給権者(基礎年金を含む)が150,289円、国民年金の老齢年金の受給権者が59,310円(厚生年金などを併せて受け取る人を含む平均)です。令和8年度の「モデル年金」(平均的な収入で40年働いた夫と専業主婦の妻の2人分)は月237,279円、国民年金の満額はひとり月70,608円(昭和31年4月2日以後生まれ)です。自分の額がどのあたりかを、まず知ってください。年金の受け取り開始年齢を変えると額も変わります(年金は何歳から受け取るのが正解か)。

② 手取りに直す

年金からは、介護保険料・健康保険料・所得税・住民税が天引きされます。家計調査の夫婦のみ無職世帯の平均では、実収入(年金以外の収入も含む)の約13%が税金と社会保険料でした(月32,850円)。ただし住民税が非課税かどうかで大きく違い、個人差が大きい数字です。詳しくは年金の天引き5つの正体と、住民税が非課税になるかどうかで負担が大きく変わるので住民税非課税ライン判定をどうぞ。

③ 支出を出す——3か月の家計簿か、平均からの引き算

いちばん確かなのは、3か月分の支出を書き出し、3で割って月平均を出すことです(年額なら3か月分の合計を4倍)。面倒なら、平均(夫婦263,979円・単身148,445円)を出発点に、「うちは家賃が月◯万円ある」「車は持たない」「持ち家の固定資産税が年◯万円」と足し引きしてください。退職後に減る支出(通勤・交際費・保険料)と増える支出(医療費・光熱費・趣味)があり、退職前の家計簿はそのまま使えません。

④ 差×年数に、予備費を足す

(③支出 − ②手取り)× 12 × 年数が、毎月の不足額の累計です(支出が手取り以下なら、この部分は0円)。ここに、別枠の予備費を足します。

  • 介護:生命保険文化センターの調査では、介護にかかった費用は平均で一時的な費用47.2万円+月9.0万円×55.0か月、合計約542万円です。自己負担には月の上限があり、施設か在宅かで大きく変わります(介護にいくらかかるか)。
  • 医療:70歳以上は高額療養費の上限があるので、保険診療の自己負担は「暦月ごとの上限×月数」で見積もれます(毎月上限に達する前提の、多めの概算です)。入院時の食事代・差額ベッド代・先進医療などは別に必要で、上限額は令和8年8月に改定されています(高額療養費 かんたん目安計算)。
  • 住まい:持ち家なら屋根・外壁・給湯器などの修繕、賃貸なら更新料と家賃の上昇。施設に入る場合の入居時費用と月額は施設のお金 目安計算で。
  • その他:車の買い替え、家電、冠婚葬祭、自分の葬儀。

この4段階を一度やると、「2,000万円」が自分にとって多いのか少ないのかが分かります。老後資金の準備度チェックは、①〜③を入れると平均との差と次の一歩を出す診断です。

足りないと分かったら——順番

  1. 支出を見直す。固定費(保険・通信・サブスク・車)から。月1万円減れば、25年で300万円です。
  2. 働く期間を延ばす。65歳以降も厚生年金に加入して働くと、給料と年金の額によっては老齢厚生年金の一部が止まります(給料〈総報酬月額相当額〉と老齢厚生年金の基本月額の合計が月65万円以下なら止まらず、老齢基礎年金は対象外)。在職老齢年金で確かめてください。
  3. 年金の受け取り方を考える。繰下げは1か月0.7%増。ただし手取りと健康寿命で考える話です(繰上げ・繰下げ 損益分岐)。
  4. 使える制度を確かめる。年金生活者支援給付金、負担限度額認定、高額療養費・高額介護サービス費。知らないと受け取れないお金があります(年金生活者支援給付金)。
  5. 運用は最後に、仕組みが分かるものだけ。退職金が入った直後に窓口で勧められた商品は、その場で決めない(銀行の窓口で勧められたら)。

老後資金の話で、いちばん大事なのは「いくら」より「自分の場合はどうか」です。平均の数字は、自分の数字を出すための出発点にすぎません。

自分の数字で確かめる

老後資金の準備度チェックで平均との差を見る、住民税非課税ライン判定で手取りの分かれ目を知る、繰上げ・繰下げ 損益分岐で受け取り方を比べる。年金の手取りは年金14万円の手取りと生活費、夫婦の一方が亡くなったあとは夫婦の年金が、ひとり分になるときをどうぞ。

「うちの場合はどう計算する?」という声は、質問・リクエスト箱から教えてください。

出典

この記事は総務省・厚生労働省・日本年金機構・金融庁の公開資料をもとにした一般的な情報で、特定の金融商品や運用を勧めるものではありません。家計調査の数字は調査対象世帯の平均で、住まいの形態や健康状態で大きく変わります。年金額は改定され、税・保険料は自治体と所得で異なります。ご自身の資金計画は、ねんきん定期便・ねんきんネットの見込み額と、実際の家計簿をもとに、必要に応じて年金事務所やファイナンシャルプランナーにご相談ください。