親の介護をした人は、相続で報われるのか——相続人なら「寄与分」、嫁や娘婿なら「特別寄与料」。ただし特別寄与料は、相続と相続人を知ってから6か月・相続開始から1年を過ぎると家庭裁判所に申し立てられません
「10年、義理の母の介護をしたのに、相続では一銭ももらえないのですか」——事実として、何もしなければそうなります。介護を担った人が自動的に多く受け取れる仕組みは、日本の相続にはありません。
ただし、主張できる道は2つあります。相続人なら寄与分、相続人でないなら特別寄与料。どちらも「言い出さなければ動かない」制度で、特別寄与料には半年という短い期限があります。この記事は、その2つの中身と限界、そして一番確実な方法の話です。
まず、誰が介護しているか
2025年(令和7年)の国民生活基礎調査で、在宅の要介護者等からみた主な介護者の全体を100とすると、「同居」が46.1%を占めます。その内訳は配偶者22.5%・子18.2%・子の配偶者4.2%・父母0.1%・その他の親族1.1%。残りは別居の家族等13.4%、事業者16.0%、その他0.7%、不詳23.9%です。
このうち「子の配偶者」は相続人ではありません。実際に介護を担っていても、遺産分割の話し合いの席に座る権利すらない。この不均衡を埋めるために2019年(令和元年)にできたのが、特別寄与料の制度です。
① 相続人が介護した場合——寄与分(民法904条の2)
民法は、共同相続人の中に「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」があるときは、その人の相続分に寄与分を加える、と定めています。
ここで壁になるのが「特別の寄与」という言葉です。親子には扶養の義務があり(民法877条)、ふつうに面倒を見た程度では、法律が期待する範囲内と扱われます。実務では、次のような要素が見られます。
- 無償かどうか——対価をもらっていたなら寄与にはなりにくい
- 期間と程度——数か月ではなく年単位か、片手間ではなく仕事を辞めるほどか
- 財産の維持・増加に結びついたか——介護サービスを頼めばかかったはずの費用を節約できた、親の預金が減らずに済んだ、など
つまり「大変だった」ではなく「そのおかげで親の財産が減らずに済んだ」という筋道が要ります。介護保険の負担割合証・サービス利用票・領収書・出費の記録・介護日誌が、そのまま証拠になります。
話し合いでまとまらないときは、家庭裁判所の「寄与分を定める処分調停」を使えます。申立人は寄与をした相続人、相手方はほかの共同相続人全員。費用は申立人1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便料です。遺産分割の事件が進行中なら、その裁判所に申し立てます。
② 相続人でない親族が介護した場合——特別寄与料(民法1050条)
2019年7月1日から、相続人ではない被相続人の親族が、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供し、それによって財産の維持・増加に特別の寄与をしたときは、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できるようになりました。典型は、義理の親を介護した子の配偶者です。
| 項目 | 寄与分(相続人) | 特別寄与料(相続人以外の親族) |
|---|---|---|
| 請求できる人 | 共同相続人 | 被相続人の親族(相続人、相続放棄した人、欠格・廃除で相続権を失った人を除く) |
| 中身 | 労務の提供・財産上の給付・療養看護など | 無償の療養看護その他の労務の提供 |
| 受け取り方 | 相続分に上乗せ | 相続人に金銭を請求(相続人が複数なら、各自が相続分に応じて負担) |
| 上限 | — | 相続開始時の財産の価額から遺贈の価額を引いた残額を超えられない |
| 期限 | 遺産分割の中で主張 | 相続の開始と相続人を知った時から6か月、または相続開始から1年を過ぎると家庭裁判所に申し立てできない |
| 家庭裁判所の手続き | 寄与分を定める処分調停(印紙1,200円) | 特別の寄与に関する処分調停(印紙1,200円×相手方の人数×被相続人の人数) |
| 税金 | 相続税の中で精算 | 確定した額を遺贈で取得したとみなして相続税。相続税が生じる場合は、その税額に2割加算 |
「親族」の範囲に注意
特別寄与料を請求できるのは親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)です。子の配偶者は1親等の姻族なので入ります。一方、内縁のパートナーや、親族でない知人・近所の方は対象外です(事実婚については事実婚と相続に書きました)。
期限が、とにかく短い
ここが実務でいちばん取りこぼされる点です。葬儀と四十九日、役所の手続き、相続人どうしの話し合い——そうしているうちに半年は簡単に過ぎます。相続登記の3年(実家が空き家になったら)や相続税の10か月と比べても、6か月は突出して短い期限です。
まず相続人に「介護の分を考えてほしい」と伝え、話がまとまらないなら早めに家庭裁判所へ。申立先は相手方の住所地の家庭裁判所(または当事者が合意で定めた家庭裁判所)です。
税金——特別寄与料は相続税の対象で、2割加算
受け取った特別寄与料は、国税庁の案内でも相続税がかかる財産として挙げられています(「特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額で確定したもの」)。額が確定すると、被相続人から遺贈で取得したものとみなされます。そして受け取る人は被相続人の一親等の血族でも配偶者でもないので、相続税がかかる場合は、その税額に2割が加算されます(基礎控除の範囲内で相続税がかからなければ、加算する税額もありません)。
申告の期限は、ふつうの相続税なら亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。ただし特別寄与料の額があとから確定して、新たに申告が必要になった場合は、その確定を知った日の翌日から10か月以内に申告します。逆に、特別寄与料を支払うことになった相続人の側は、すでに納めた相続税が多すぎたことになるので、確定を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求ができます(期限が両者で違う点に注意してください)。
金額が大きくなりそうなら、税理士に早めに相談してください。相続税がかかるかどうかの目安は相続税の基礎控除 計算で確かめられます。
結局、いちばん確実なのは
寄与分も特別寄与料も、後から・もめてから・証明しながら取りにいく制度です。認められる保証はなく、家族の関係にも傷が残ります。確実なのは、介護を受ける本人が元気なうちに決めておくことです。
- 遺言で、介護してくれた人に渡す——相続人でない子の配偶者にも遺贈できます。公正証書にすれば形式の不備がありません(遺言書の書き方と法務局保管)。子や親には遺留分があるので、そこは踏まえて金額を決めます
- 生命保険の受取人にする——受取人固有の財産として渡せます。ただし相続人以外が受け取る保険金には非課税枠(500万円×法定相続人)がなく、2割加算の対象です
- 介護の対価を決めて払う——「月◯万円」と決めて支払えば、あとで争う必要がなくなります。ただし特別寄与料は「無償」の労務が前提なので、対価を受け取った分は特別寄与料の対象になりにくくなります(対価と関係なく無償で行った部分まで、ただちに対象外になるわけではありません)。また、支払いの実態によって税金の扱いが変わり(役務の対価なら受け取った側の所得として課税される場合があり、実質的に贈与とみられれば贈与税の問題になります)、支払う側の相続財産も減ります。始める前に税理士に確認してください
- 記録を残す——上の3つをしていない場合の保険です。介護日誌、立て替えた費用の領収書、サービス利用票。これは家族の中で「誰が何をしたか」を共有する資料にもなります
今日できること
- いま介護している人が相続人かどうかを確かめる(子の配偶者は相続人ではありません)
- 相続人でないなら、本人が元気なうちに遺言の話をする。難しければ、せめて介護の記録と立て替えの領収書を残す
- すでに相続が始まっているなら、亡くなった日と、相続人を知った日をメモする(6か月・1年の起算点です)
- 話し合いがまとまらない見込みなら、家庭裁判所の手続き案内を早めに確認する
相続のことを、順番に
遺言の書き方と預け方は遺言書の書き方と法務局保管、亡くなったあとの期限は家族が亡くなった後の手続き一覧へ。事実婚のパートナーの場合は事実婚と相続に書きました。相続税がかかるかは相続税の基礎控除 計算、介護費用の全体像は介護にいくらかかるかで確かめられます。
「うちはこう分けた」という話は、質問・リクエスト箱から教えてください。
このテーマをまとめて読む:老後資金のまとめ
出典
- 民法(e-Gov法令検索)第904条の2(寄与分:被相続人の療養看護その他の方法により財産の維持または増加について特別の寄与をした共同相続人)・第1050条(特別の寄与:無償で療養看護その他の労務の提供をした親族の特別寄与料、家庭裁判所への請求は相続の開始および相続人を知った時から6か月・相続開始から1年、遺贈の価額を控除した残額が上限、各相続人は相続分に応じて負担)・第877条(直系血族および兄弟姉妹の扶養義務) (2026年9月24日確認)
- 裁判所「寄与分を定める処分調停」(申立人=特別の寄与をした相続人、相手方=申立人以外の共同相続人全員、申立先、費用は申立人1人につき収入印紙1,200円と連絡用の郵便料) (2026年9月24日確認)
- 裁判所「特別の寄与に関する処分調停」(申立人=相続人以外の親族、申立期間は相続の開始があったことおよび相続人を知った時から6か月・相続開始から1年、申立先、費用は収入印紙1,200円×相手方の人数×被相続人の人数) (2026年9月24日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4105「相続税がかかる財産」((8)特別寄与者が支払を受けるべき特別寄与料の額で確定したもの) (2026年9月24日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4157「相続税額の2割加算」(一親等の血族および配偶者以外の人は相続税額の2割相当を加算) (2026年9月24日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」(死亡したことを知った日の翌日から10か月以内) (2026年9月24日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」(非課税限度額500万円×法定相続人の数。相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用なし) (2026年9月24日確認)
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況(要介護者等と主な介護者の同別居:同居46.1%。同居の主な介護者の続柄:配偶者22.5%・子18.2%・子の配偶者4.2%、別居の家族等13.4%・事業者16.0%) (2026年9月24日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.4132「相続人の範囲と法定相続分」 (2026年9月24日確認)
- 国税庁「相続税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)の趣旨説明」(令和元年10月28日。特別寄与料の額が確定した場合は遺贈により取得したものとみなす〈相法4②〉、相続人の課税価格から控除〈相法13④〉、新たに申告書を提出すべき要件に該当した者は確定したことを知った日の翌日から10か月以内に申告〈相法29①、31②〉、支払う相続人は確定を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求〈相法32①七〉) (2026年9月24日確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.1300「所得の区分のあらまし」(役務の対価として受け取るものの所得区分) (2026年9月24日確認)