高齢者の防災——備蓄は「最低3日、できれば1週間」、危険な場所にいる人は「レベル3」で動く、そして「名簿を確かめる」。2026年5月から気象庁の情報名にレベルの数字がつきました。在宅避難・避難所・助けを呼ぶ備えの3つを、今日できる順に
「防災」と聞くと、リュックに詰めた非常持ち出し袋を思い浮かべます。けれど、高齢の方の備えは少し違います。家が安全なら家にいるのがいちばん体に負担が少なく、危険な場所にいるなら周りより早く動く必要があり、そして助けを受けるための名簿や計画について、自分が対象か・平時からの情報共有への同意が済んでいるかを確かめておく必要があります。
この記事では、備えを「在宅避難」「避難する」「助けを呼ぶ・呼ばれる」の3つに分け、それぞれ国の資料が示す目安と、今日できることを書きます。家具の固定と火災警報器は別の記事にまとめてあるので、最後に案内します。
① 在宅避難の備え——最低3日、できれば1週間
大きな地震のあと、電気・水道・ガスが止まり、店にも物がない期間を自宅で過ごすための備えです。首相官邸と内閣府の資料が示す目安は次のとおりです。
| 品目 | 国の目安 | 高齢の方への補足 |
|---|---|---|
| 飲料水 | 1人1日3リットルを3日分。大規模災害では1週間分 | ひとり暮らしなら2リットル×5本で3日分、11本で1週間分。重いので玄関近くの床に置く |
| 食料 | 3日分、できれば1週間分 | 火を使わず食べられるもの、噛みやすいもの(レトルトのおかゆ・缶詰・ゼリー飲料)。ふだん食べているものを少し多めに買い、食べたら足す「ローリングストック」が続きやすい |
| トイレ | 内閣府のガイドラインでは1人1日5回が計画の目安 | 携帯トイレ(便袋)を1週間分なら35回分。水洗トイレは断水すると使えません。ここが不足すると水分を控えてしまい、体調を崩す原因になります |
| 薬・医療 | — | 常備薬を1週間分とお薬手帳(またはそのコピー・写真)。眼鏡・入れ歯と洗浄剤・補聴器の電池・杖。避難先で「何の薬か分からない」がいちばん困ります |
| 明かり・情報 | — | 懐中電灯(枕元)、手回しか電池のラジオ、携帯電話の充電池。カセットコンロとボンベがあれば温かいものが食べられます |
| その他 | — | 現金(停電で決済機が止まります)、ラップ(皿にかけて洗い物を減らす)、ビニール袋、ウェットティッシュ、使い捨てカイロ、おむつを使う方はその1週間分 |
全部を一度に揃える必要はありません。水とトイレと薬——この3つが先です。東京都の「東京備蓄ナビ」のように、家族の人数と年齢を入れると必要な量の一覧を出してくれるサイトもあります。
防災セット・携帯トイレ・停電用の電源(ポータブル電源)をまとめて買う方は、「自分が持てる重さか」「使い方を今のうちに一度試したか」を基準に選んでください。使い方を災害のときに初めて読むのは、無理です。
② 避難する備え——危険な場所にいる人は「レベル3」が出発合図
大雨や台風の避難情報は5段階の「警戒レベル」で出ます。覚えてほしいのは、危険な場所(ハザードマップで浸水や土砂災害の区域に入る場所)にいる高齢者や、避難に時間がかかる人は、レベル3で避難を始めるということです。安全な場所にいる人まで避難所へ行く必要はありません。
| 警戒レベル | 主な情報(1・2は気象庁、3〜5は市区町村の避難情報) | とる行動 |
|---|---|---|
| 1 | 早期注意情報(気象庁) | 災害への心構えを高める |
| 2 | 注意報(気象庁) | ハザードマップで避難先と経路を確認する |
| 3 | 高齢者等避難 | 危険な場所にいる高齢者・障害のある人・避難に時間がかかる人は避難する。ほかの人も自分の避難行動を確認し、準備を始める |
| 4 | 避難指示 | 危険な場所にいる人は全員避難する |
| 5 | 緊急安全確保 | すでに災害が起きている状態。安全な避難ができず、命の危険。近くの建物の上階などで少しでも安全な場所へ |
レベル5を待ってはいけません。レベル4までに必ず避難し、危険な場所にいる高齢の方はその1段階前、レベル3で動きます。
2026年5月29日から、気象庁の情報の名前も変わりました。これまで「大雨警報」「土砂災害警戒情報」などと言われていたものが、「レベル3大雨警報」「レベル4土砂災害危険警報」「レベル5氾濫特別警報」のように、警戒レベルの数字を頭につけて発表されます。これは市区町村の避難情報(高齢者等避難・避難指示)そのものではなく、それに相当する気象庁の情報です。市区町村の避難情報がまだ出ていなくても、この数字とキキクル(気象庁の危険度分布)や川の水位を見て、自分で避難を判断するための材料になります。
避難先は「避難所」だけではない
国の資料が示す避難先は、市区町村が災害の種類ごとに指定する指定緊急避難場所(小中学校・公民館など)のほかに、親戚・知人の家、ホテル・旅館、自宅や近くの建物の上の階があります。浸水しない場所にある親戚の家に早めに行くのは、立派な避難です。ハザードマップで自宅が浸水や土砂災害の区域に入っていないか確かめ、入っていれば「レベル3が出たらどこへ行くか」を家族と決めておいてください。区域に入っていなくても安全とは限りません。低地や崖の近くではないか、建物は安全か、避難情報が出ていないかを確かめ、安全を確保できる場合に在宅避難を選びます。なお、自宅に戻れない人が避難生活を送る場所は「指定避難所」で、緊急時にまず向かう「指定緊急避難場所」とは別に指定されています(同じ建物のこともあります)。
③ 助けを呼ぶ・呼ばれる備え——「名簿」と「計画」と「福祉避難所」
自分で避難するのが難しい方のために、国が市区町村に作らせている仕組みが3つあります。対象の基準・名簿への載り方・支援者への情報共有の手続きは市区町村ごとに違うので、まず「自分は対象か」「もう載っているか」を確かめるところから始めます。
- 避難行動要支援者名簿——災害のとき自力での避難が難しい人の名簿で、2013年の法改正で市区町村に作成が義務づけられ、2026年4月1日時点で全1,741市町村が作成済みです。対象の目安(要介護度・障害の等級・ひとり暮らしの高齢者など)は市区町村ごとに決まっていて、自治体が持つ介護・障害の情報から自動的に載る場合と、申し出が要る場合があります。ただし名簿に載っただけでは、平時から民生委員や自主防災組織に情報が渡っているとは限りません。ふだんから支援者に情報を共有するには原則として本人の同意が要り、国の調査では名簿に載っている人のうち平時から情報が提供されているのは約4割です。「載っているか」「同意の手続きをしたか」の2つを確かめてください
- 個別避難計画——名簿の一人ひとりについて「誰が・どこへ・どうやって」避難を手伝うかを書いた計画です。2021年の法改正で市区町村の努力義務になりました。ケアマネジャーや民生委員と一緒に作る自治体が多く、作るときに本人の同意が要ります
- 福祉避難所——一般の避難所で過ごすのが難しい人のための避難所で、高齢者施設などが指定されます。2021年のガイドライン改定で、受け入れる人をあらかじめ決めて公示できるようになり、自治体が受入対象者と避難先を事前に調整している場合は、一般の避難所を経由せず直接避難できることがあります。直接避難は事前に調整された人が対象なので、自分が対象になるか、どこに行けばよいかを、市区町村の福祉の窓口で確かめておきます
この3つは、市区町村の福祉の担当課か防災の担当課に「避難行動要支援者名簿に載っているか確かめたい」「個別避難計画を作りたい」と言えば、確認と手続きが始まります。要介護認定を受けている方は、担当のケアマネジャーに聞くのが早い場合もあります。
家族と決めておく2つのこと
- 安否確認の方法——電話がつながらないとき、局番なしの「171」(災害用伝言ダイヤル)に自宅の電話番号で伝言を残す、と家族で決めておきます。使い方は毎月1日と15日に体験利用できます。スマホなら携帯各社の災害用伝言板もあります
- 「レベル3が出たらどうするか」——危険な場所に住んでいるなら、誰が迎えに来るのか、来られないときはどこへ行くのか。安全な場所なら、家にとどまる判断と連絡の仕方。当日に電話で相談する前提はやめて、先に決めておきます
家の中の備え——家具の固定と火災警報器
地震のけがの3〜5割は家具の転倒・落下によるもので、寝室から固定するのが順番です。突っ張り棒だけでは足りない理由と自治体の無料取付けは家具の固定と感震ブレーカーに、住宅火災で亡くなる人の4人に3人が65歳以上という数字と「10年交換」の話は火災警報器の記事にまとめました。空き巣と押し込み強盗の備えは住まいの防犯です。
今日できること——順番どおりに
- ハザードマップで自宅を確かめる(市区町村のサイト、または国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」)。区域内なら「レベル3で行く先」を決める。区域外でも、低地や崖の近くなら同じように決めておく
- 水2リットル×5本、携帯トイレ15回分、常備薬1週間分とお薬手帳のコピーを今週中に揃える(これで3日分の最低線)
- 市区町村に電話して、避難行動要支援者名簿に載っているか・対象になるか、平時からの情報共有の同意をしているか、福祉避難所の対象と場所を聞く
- 家族に171の使い方と「レベル3が出たら」の約束を伝える
備えは、揃えた量より「決めてあること」の数で効きます。水と薬と、行く先と、連絡の方法。この4つが決まっていれば、あとは足していくだけです。
家の中の備えとあわせて
寝室から始める家具の固定と感震ブレーカー、火災警報器の10年交換、空き巣と押し込み強盗の備え。ひとり暮らしの見守りは見守りサービス5つの型をどうぞ。
「うちの市の名簿はどう申し込む?」「この備蓄で足りる?」という声は、質問・リクエスト箱から教えてください。
出典
- 首相官邸「災害に対するご家庭での備え」(飲料水は1人1日3リットルが目安で3日分、非常食3日分、大規模災害では1週間分、非常用持ち出しバッグ、家具の固定、災害用伝言ダイヤル171、ハザードマップと避難場所の確認) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「今日から始める私の防災のページ」(最低3日分の食料や水の備蓄、非常持出品の例、背の高い家具の固定) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(トイレの使用回数は1人1日5回を平均として備蓄量を計算) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「避難情報に関するガイドラインの改定(令和8年3月)」(警戒レベル1〜5と住民がとるべき行動、レベル3 高齢者等避難・レベル4 避難指示・レベル5 緊急安全確保、「警戒レベル4までに必ず避難」、避難先の例〈指定緊急避難場所・親戚知人宅・ホテル旅館・上階〉、令和8年5月下旬からの新たな防災気象情報に対応) (2026年9月19日確認)
- 気象庁 報道発表「5月29日(金)から、新たな防災気象情報の運用を開始します〜情報名称にレベルの数字をつけて発表します〜」(令和8年4月14日。レベル3大雨警報・レベル4土砂災害危険警報・レベル5氾濫特別警報などの名称) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「災害対策基本法等の一部を改正する法律(令和3年法律第30号)概要」(公布 令和3年5月10日・施行5月20日。避難勧告・避難指示の一本化、避難行動要支援者名簿は平成25年に作成義務化、個別避難計画の作成を市町村の努力義務化) (2026年9月19日確認)
- 内閣府・消防庁「避難行動要支援者名簿及び個別避難計画の作成等に係る取組状況の調査結果」(調査基準日 令和8年4月1日:名簿は全1,741市町村で作成済み〈100%〉、平時からの名簿情報提供団体1,642〈94.3%〉、名簿掲載者に占める平時からの情報提供者の割合39.9%) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「避難行動判定フロー」(ハザードマップで自宅の場所を確認し、色が塗られていなくても周りより低い土地や崖のそばは注意、安全な場所にいる人は避難所に行く必要なし、避難先は親戚・知人宅も) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」(平成25年6月の災害対策基本法改正で避難行動要支援者名簿の作成を義務化、取組指針) (2026年9月19日確認)
- 内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン 主な改定のポイント(令和3年5月)」(指定福祉避難所の受入対象者を公示する制度の創設、日頃から利用している施設への直接の避難の促進) (2026年9月19日確認)
- 東京都「東京備蓄ナビ」(家族構成を入れると備蓄の品目と量の目安を表示) (2026年9月19日確認)
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」(住所から洪水・土砂災害・高潮・津波のリスクを重ねて表示) (2026年9月19日確認)