親の介護が始まったら、会社を辞める前に——介護休業93日・介護休暇年5日・休業前の賃金の67%相当の給付金。2025年4月から、会社には制度を説明する義務があります
「父が倒れた。介護をしなければならないので、仕事は辞めるしかないのか」——厚生労働省のリーフレットは、この一文から始まります。答えは「辞める前に、使える制度があります」です。しかも、会社に制度がなくても、法律にもとづいて使えます。
この記事は、親(または配偶者や配偶者の親)の介護が始まった、働いている方に向けて書いています。要介護認定の申請や介護にいくらかかるかは親の側の話でしたが、こちらは介護する側の仕事とお金の話です。
まず、国が言っている「介護休業の使い方」
介護休業というと、「休みを取って自分が親を介護する期間」と思われがちです。しかし厚生労働省の特設サイトは、はっきりこう書いています。休業期間は自分が介護を行うのではなく、仕事と介護を両立できる体制を整えるための準備期間と捉え、一人で抱え込まずに制度やサービスを活用しましょう、と。
具体的には、この期間にやることは次のようなものです。
- 市区町村・地域包括支援センター・ケアマネジャーへの相談と、要介護認定の申請
- 介護サービス(訪問介護・デイサービス・ショートステイなど)の手配
- 家族での分担の決定
- 民間サービス・地域のサービスを探すこと
通算93日というのは、「93日介護する」のではなく、「93日のうちに、自分が仕事に戻っても回る形をつくる」ための日数です。この読み方を先に押さえておくと、あとの制度の意味がつながります。
制度は6つ——まとめて一覧
| 制度 | 内容 | 申し出 |
|---|---|---|
| 介護休業 | 対象家族1人につき通算93日、3回まで分割可 | 開始の2週間前までに書面など |
| 介護休暇 | 年5日(対象家族2人以上なら年10日)。1日または時間単位 | 口頭でも可 |
| 所定外労働の制限(残業免除) | 介護が終わるまで。1回につき1か月〜1年、回数制限なし | 開始の1か月前までに書面など |
| 時間外労働の制限 | 月24時間・年150時間を超える時間外労働を制限 | 同上 |
| 深夜業の制限 | 午後10時〜午前5時の労働を制限 | 同上 |
| 短時間勤務などの措置 | 短時間勤務・フレックス・時差出勤・介護費用の助成のいずれか1つ以上を会社が用意。利用開始から3年以上の期間で2回以上使える | 会社の制度による |
これらは育児・介護休業法で決まっている労働者の権利です。会社の就業規則に書かれていなくても使えます(短時間勤務などの措置だけは会社が制度を設ける義務の形ですが、設けることが義務です)。介護休業などを申し出たり取ったりしたことを理由にした解雇や不利益な扱いは禁止され、上司や同僚からの嫌がらせを防ぐ措置も会社に義務づけられています。
「要介護状態」と「対象家族」——誰のために使えるか
制度の対象になる要介護状態とは、負傷・疾病または身体上・精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことです。介護保険の要介護2以上なら該当します。要介護認定を受けていない場合でも申し出られますが、その場合は厚生労働省の「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」に照らして判断されます。基準は、座位保持・歩行・移乗・食事・排泄・着替え・意思の伝達・外出して戻れない・物を壊す・物忘れによる支障・薬の管理・日常の意思決定の12項目について、基準の表の「状態2」(一部介助や見守りが必要、ときどきできない、など項目ごとに定義)が2つ以上、または「状態3」(全面的介助が必要、できない、など)が1つ以上該当し、その状態が続くと認められること。介護が2週間以上続くというだけで自動的に対象になるわけではありません。ただし国は、この基準に厳密にとらわれて取得が制限されないよう、会社に柔軟な運用を求めています。認定の結果を待たなくても申し出られる、というのが実務上の要点です。
対象家族は、配偶者(事実婚を含む)・父母・子・配偶者の父母・祖父母・兄弟姉妹・孫です。同居や扶養は条件ではありません。遠くに住む親のためにも使えます。
介護休業——93日を3回に分ける、という使い方
対象家族1人につき通算93日。これを最大3回に分けて取れます。たとえば、こんな使い方です。
- 1回目(退院直後、2〜3週間):要介護認定の申請、ケアマネジャー探し、在宅サービスの手配、家の中の段差や手すりの手配。
- 2回目(状態が変わったとき):区分変更の申請、施設の見学と申し込み、契約の立ち会い。
- 3回目(看取りの時期など):残りの日数を、最後の時期に使う。
1回目で93日を使い切ると、あとの節目に休めません。「まとめて取る」より「節目ごとに分ける」ほうが、この制度の設計に合っています。
申し出は、休業開始予定日の2週間前までに書面などで会社に出します。会社は開始日・終了日などを速やかに書面で通知しなければなりません。パートやアルバイトなど有期雇用の方も、休業開始予定日から93日を経過する日から6か月の間に契約が終わることが明らかでなければ取れます。労使協定がある会社では、勤続1年未満、申し出から93日以内に退職が明らかな人、週の所定労働日数が2日以下の人は対象外にできます。
介護休暇——通院の付き添いや手続きの日に、時間単位で
介護休暇は、通院の付き添い、介護サービスの手続きの代行、ケアマネジャーとの打ち合わせなど、スポットで休むための制度です。年5日(対象家族が2人以上なら年10日)、1日または時間単位で取れます。年次有給休暇とは別に会社が与えなければならず、口頭の申し出でも構いません。有給か無給かは会社の規定によります。
2025年4月からは、それまで労使協定で対象外にできた「勤続6か月未満」の除外がなくなりました。入社してすぐの方でも使えます。
お金の話——介護休業給付金(休業前の賃金の67%)
介護休業中の給料は、法律上は会社に支払い義務がありません(無給の会社が多いです)。その代わり、雇用保険から介護休業給付金が出ます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| もらえる人 | 雇用保険の被保険者で、休業開始前の2年間に、賃金の支払いの基礎となった日が11日以上ある月が12か月以上ある人(足りない場合は80時間以上の月で数える) |
| 金額 | 休業開始時の賃金日額 × 休業日数 × 67%。1か月あたりの上限は366,222円(賃金月額546,600円が上限。令和8年8月1日〜令和9年7月31日の額で、毎年8月に見直し) |
| 回数・期間 | 同じ家族について93日を限度に3回まで。1回の休業は最長3か月分 |
| 休業中に給料が出た場合 | 休業中の賃金が休業前の80%以上なら支給されず、13%を超えて80%未満なら差額に調整 |
| 働いた日 | 1か月の支給単位期間ごとに、就業日が10日以下であること |
| 対象外 | 休業を始める時点で、休業後に退職する予定の人 |
目安をひとつ。休業前の月給が30万円(賃金日額1万円)の人が30日休むと、1万円×30日×67%=約20万1千円です。3か月なら約60万円。会社から給料が出ない期間を、この給付でつなぐ形になります。
申請は原則「休業が終わってから」、会社経由で
申請は、原則として1回の介護休業が終わったあとに、会社(事業主)がハローワークに行います(本人が自分で申請することも可能です)。休業が3か月以上にわたる場合は、休業開始日から3か月を経過した日以後に申請します。期限は、休業終了日(3か月以上なら3か月を経過した日)の翌日から2か月を経過する日の属する月の末日まで。たとえば7月25日に休業が終わったら、9月30日までです。支給が決まると約1週間後に本人の口座に振り込まれます。
原則として会社を経由して申請するので、休業に入る前に「給付金の申請をお願いします」と人事に伝えておくと、あとで慌てません。添付書類として、会社に出した介護休業申出書と、対象家族との続柄が分かる書類(住民票記載事項証明書など)が要ります。
2025年4月からの改正——会社の側に義務が増えました
2025年4月1日施行の改正で、会社の側の義務が増えました。使う側として知っておくと、話を切り出しやすくなります。
- 介護に直面したと申し出た人への個別の周知と意向確認:会社は、介護休業などの制度・申出先・介護休業給付金について、面談や書面で個別に説明し、利用する意向を確認しなければなりません。取得を控えさせるような説明は認められません。
- 40歳のときの情報提供:介護保険料の負担が始まる40歳前後に、会社は介護休業などの制度を情報提供しなければなりません。
- 雇用環境の整備:研修、相談窓口の設置、利用事例の提供、方針の周知のいずれかが義務です。
- テレワーク:介護をする人がテレワークを選べるようにすることが、会社の努力義務になりました。
- 介護休暇の要件緩和:勤続6か月未満の除外が廃止。
つまり、「親の介護が始まりました」と会社に伝えること自体が、制度の説明を受ける引き金になります。何を使うか決まっていなくても、まず伝えてください。
辞める前に、順番
- 会社に「介護に直面した」と伝える。人事や上司に。制度の説明と意向確認を受けられます。
- 介護休暇で最初の数日を動く。病院との話、地域包括支援センターへの相談、要介護認定の申請。
- 体制づくりが必要なら介護休業(1回目)。ケアマネジャーとサービスを決める期間。給付金の申請を会社に依頼。
- 戻ったあとは残業免除・時間外の制限・短時間勤務で続ける。
- 節目に2回目・3回目の介護休業を残しておく。
対象になる人からの申し出を「うちには制度がない」と拒んだり、介護休業などの申し出や取得を理由に解雇や退職の強要などの不利益な扱いをしたりすることは、法律で認められていません。そうした対応をされたときの相談窓口は都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。
介護は、いつ終わるか分からない長い時間です。国の資料は、55〜59歳の働く人の10人に1人以上が介護に直面していると書いています。ひとりで抱えず、制度と人を使う。それが、親のためにも自分のためにも続けられる形だと思います。
あわせて読む・確かめる
休業中にやることの筆頭は要介護認定の申請です。かかるお金の全体像は介護にいくらかかるか、親のお金の管理は認知症の親の口座、施設を考えるなら老人ホーム8種類の見取り図へ。医療と介護の備えは医療・介護の備えチェックで。
「うちの場合はどうなる?」という疑問があれば、質問・リクエスト箱から教えてください。記事の形でお答えしていきます。
出典
- 厚生労働省 介護休業制度特設サイト「介護休業」(要介護状態の定義・活用ポイント〈体制を整える準備期間〉・対象労働者・対象家族・通算93日3回・2週間前の申出・有期雇用の要件・労使協定除外) (2026年9月15日確認)
- 同「介護休暇」(年5日/10日・1日または時間単位・口頭申出可・年次有給休暇とは別・2025年4月から勤続6か月未満の除外を廃止) (2026年9月15日確認)
- 同「法改正のポイント」(2025年4月1日施行:個別の周知・意向確認、40歳時の情報提供、雇用環境整備、テレワーク努力義務、介護休暇の要件緩和) (2026年9月15日確認)
- 同「短時間勤務等の措置」「所定外労働の制限(残業免除)」(措置の種類・3年以上で2回以上・残業免除は1回1か月〜1年で回数制限なし・1か月前までに請求) (2026年9月15日確認)
- 同 特設サイト トップ(介護関係の改正は2025年4月1日施行・55〜59歳の10人に1人以上が介護に直面〈総務省 令和4年就業構造基本調査〉) (2026年9月15日確認)
- 厚生労働省 通達「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」(令和7年1月20日、令和7年2月5日改正)別添1「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」(要介護2以上、または12項目のうち状態2が2つ以上か状態3が1つ以上で継続・事業主に柔軟な運用を求める記述・対象家族は同居の有無を問わない) (2026年9月15日確認)
- 厚生労働省リーフレット「仕事と介護の両立のための制度等の概要」(制度一覧・時間外労働の制限 月24時間年150時間・深夜業の制限・不利益取扱いの禁止・ハラスメント防止・相談窓口) (2026年9月15日確認)
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「介護休業給付の内容及び支給申請手続について」(令和8年8月版:支給要件・67%・賃金月額上限546,600円と1支給対象期間の上限366,222円〈令和9年7月31日までの額〉・賃金80%以上で不支給・就業10日以下・93日3回・休業後に離職予定の人は対象外・申請は休業終了日の翌日から2か月を経過する日の属する月の末日まで・事業主経由・支給決定後約1週間で振込) (2026年9月15日確認)
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「令和8年8月1日から支給限度額が変更になります」(介護休業給付金 上限額356,574円→366,222円・賃金月額上限532,200円→546,600円) (2026年9月15日確認)
- ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付」(介護休業給付の支給要件・支給額・対象家族・申請手続) (2026年9月15日確認)