退職金2000万円・勤続38年なら税金は0円——ただし紙を1枚出さないと408万円引かれます
38年勤めて、退職金を2000万円受け取ったとします。ここから引かれる税金はいくらだと思いますか。
答えは0円です。1円も引かれません。ただし、条件があります。この計算は、同じ年や調整の対象になる過去の年に、ほかの退職金やiDeCoの一時金を受け取っていない、一般的なケースの話です(重なる場合は後述します)。この記事では、そのしくみと、知らないと408万円が天引きされてしまう「紙1枚」の話、そして令和8年1月から変わったiDeCoの「10年ルール」を整理します。
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退職金の税金は、3つの段階で決まる
退職金は、長年の勤労に報いるお金として、税金の世界でとくに手厚く守られています。計算は3段階です。
- 退職所得控除を引く勤続38年なら控除は2,060万円。3,000万円−2,060万円=940万円。
- 残りを半分にする(原則)940万円÷2=470万円。
- はじめて税率をかける税金がかかるのは、この470万円の部分だけ。年金や給料とは合算されない分離課税です。
退職金が2,000万円なら、控除2,060万円を引くとマイナスになり、税金は0円です。ただし「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと、いったん20.42%が引かれます(下の③)。
① 退職所得控除——勤続20年を境に増え方が変わる
控除の計算式はこうです。
- 勤続20年以下:40万円×勤続年数(計算結果が80万円に満たないときは80万円)
- 勤続20年を超えた分:1年につき70万円
| 勤続年数 | 退職所得控除 |
|---|---|
| 10年 | 400万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 38年 | 2,060万円 |
38年勤めた方なら、最初の20年で800万円、残りの18年で1,260万円、合計2,060万円。退職金2,000万円から引くとマイナスになるので、課税される部分が残りません。これが「税金0円」の理由です。
ひとつ覚えておきたいのが、勤続年数の1年未満の端数は切り上げということです。20年と1ヶ月なら21年として計算されます。20年を超えたあとなら、1ヶ月の差で控除が70万円変わることもあります。
② 控除を超えても、残りは半分
同じ38年勤続で退職金が3,000万円だった場合は、控除2,060万円を引いて940万円、これを半分にして470万円。課税の対象になるのはこの470万円だけです。3,000万円のうち、税金がかかるのは2割弱の部分だけ、ということになります。
③ いちばん大事:出さないと20.42%引かれる紙
「退職所得の受給に関する申告書」という、会社に出す1枚の紙があります。これを出さないと、控除に関係なく退職金の20.42%が源泉徴収されます。
さきほどの方なら、本来の税金は0円のはずが、申告書を出さないと408万4,000円が引かれ、手元に入るのは1,591万6,000円になります。
この紙は退職金を受け取る前までに会社へ出します。多くの会社は退職手続きのときに用意してくれるので、渡されたら必ず出してください。もし出し忘れても、確定申告をすれば払いすぎた分は戻ってきます。ただし、黙っていては戻りません。
④ 令和8年1月から:iDeCoの「5年ルール」が「10年ルール」に
iDeCoや企業型の確定拠出年金を一時金で受け取る方に関係する変更です。
退職金やiDeCoの一時金を近い時期に複数受け取ると、勤続期間の重なった部分について、退職所得控除が二重にならないよう調整されます。これまでは、退職金を受け取る年の前年以前4年内にiDeCoの一時金を受け取っていると、調整の対象でした(いわゆる「5年ルール」)。令和8年1月1日以後にiDeCoなどの老齢一時金を受け取り、そのあとに退職金を受け取る場合は、この期間が前年以前9年内に延びました(「10年ルール」)。「受け取った日から10年」ではなく、年単位の判定です。なお、令和8年1月1日より前に受け取った老齢一時金については、従来どおり「前年以前4年内」の扱いが残ります。調整の対象になると、退職金のほうの控除が減ることがあります。
なお、順番が逆(退職金が先でiDeCoが後)の場合は別のルールです。受け取る順番と間隔で結論が変わるため、一律に「こうすべき」とは言えません。判断材料になるのは次の3つです。
- 退職金とiDeCo、それぞれいくらになるか
- 勤続年数と、iDeCoの加入年数
- 受け取る順番と間隔
例外も知っておく
- 役員としての勤続が5年以下の場合、「半分にする」計算が使えないことがあります
- 役員でなくても勤続5年以下なら、控除後300万円を超えた部分は半分になりません
- 障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、退職所得控除に100万円が加算されます
一時金か、年金形式か——税金だけの話ではありません
退職金を一時金でまとめて受け取ると、この記事の退職所得の計算になります。一方、iDeCoや確定給付企業年金などを年金形式で受け取ると、原則として公的年金等に係る雑所得として毎年計算され、年ごとの収入が増えるので健康保険料や介護保険料に影響する場合があります。
年ごとの収入が増えると、住民税非課税のラインを越えることがあり、そうなると医療費の自己負担の上限にも影響します。退職金の受け取り方は、税金だけの話ではないのです。
そもそも退職金は、いくらもらえるものなのか——公的な調査の平均
「退職金の計算」で探している方の多くは、税金より先に「自分はいくらもらえるのか」が知りたいはずです。厚生労働省の就労条件総合調査(令和5年)では、勤続20年以上の定年退職で大学・大学院卒1,896万円、高校卒1,682万円(管理・事務・技術職)が1人平均で、この記事の例に使った「2,000万円」はその平均に近い額です。ただし中小企業のモデル退職金は大学卒で約1,150万円、制度そのものがない会社も4社に1社あります。勤続年数別・退職理由別の平均、中小企業の目安、自分の額を退職金規程と中退共で確かめる手順は退職金の相場はいくらかに分けてまとめました。額が分かったら、記事の下の計算機で税金と手取りを確かめてください。
今日から確かめられること
- ご自分の勤続年数(端数は切り上げ)
- 会社の退職金の見込み額(退職金規程を見るか、人事・総務に聞く)
- iDeCoや企業型の確定拠出年金に入っているかどうか
計算は国税庁の公表資料にもとづいていますが、勤続年数・金額・受け取り方で結論は変わります。金額の大きい話ですので、実際の判断の前には、お近くの税務署や税理士などの専門家にご相談ください。この記事は特定の受け取り方をすすめるものではありません。
ご自身の数字で確かめる
退職金の手取り計算(税金シミュレーション)に勤続年数と金額を入れると、税金・手取りと「申告書を出さなかった場合の差」がその場で分かります。退職したあとの健康保険の選び方は退職後の健康保険は3択にまとめました。取り上げてほしいテーマは質問・リクエスト箱からどうぞ。
このテーマをまとめて読む:退職金のまとめ
出典
- 国税庁 タックスアンサー「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」 (2026年8月25日確認)
- 国税庁「退職所得の受給に関する申告書」(提出しない場合の20.42%の源泉徴収) (2026年9月6日確認)
- 国税庁「令和8年分以後の所得税に適用される改正」(老齢一時金と退職手当等の重複排除の特例=前年以前9年内・令和8年1月1日前の一時金は4年内) (2026年9月6日確認)
- 国税庁「公的年金等に係る雑所得」(年金形式で受け取る場合の課税) (2026年9月6日確認)
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」(退職給付制度がある企業割合、退職事由別・制度形態別の1人平均退職給付額) (2026年9月6日確認)
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 調査の概要」(対象は常用労働者30人以上の民営企業) (2026年9月6日確認)
