誠一の老後メモ

知らないと損をすることを、ひとつずつ。

運転免許を返すか、続けるか——75歳からの更新で要る検査、返したあとの「運転経歴証明書」、車がなくなってからの移動手段

「そろそろ免許を返したほうがいいのか」。本人も家族も、いちばん切り出しにくい話のひとつだと思います。返すと決めても、翌日からの買い物や通院をどうするかが決まっていなければ、家に閉じこもるだけになります。逆に「まだ大丈夫」で続けるなら、70歳・75歳からの更新で何が求められるかを知っておく必要があります。

警察庁の運転免許統計によると、2025年(令和7年)に自分から申請して免許を取り消した人(自主返納)は43万5,067人で、そのうち75歳以上が26万915人(60.0%)でした。いちばん多かったのは2019年の60万1,022人で、その後は40万人前後で推移しています。返納は珍しいことではなくなりましたが、同時に「返したあと」の準備が本人任せになりやすい、というのがこの記事の出発点です。

選択肢は「返す・続ける」の2つではなく3つ

選択肢どういうこと向いている人
続ける70歳以上は高齢者講習、75歳以上は認知機能検査(違反歴があれば運転技能検査も)を受けて更新する運転に不安がなく、検査・講習の結果も問題ない人
サポートカー限定免許にする警察庁の対象車両リストに載っている、安全運転支援装置つきの普通自動車だけを運転できる条件を、申請して免許につける(2022年5月13日から)運転は続けたいが、踏み間違いなどの事故が心配な人・家族
返す(自主返納)運転免許センターや警察署で免許を返し、必要なら運転経歴証明書をもらう車がなくても生活が回る見通しが立った人。運転をやめるよう医師や家族から言われている人

順番としては、「いきなり返納」ではなく、更新時の検査でいまの状態を知る→限定免許で続ける道を検討する→返すなら移動手段を先に用意する、と段階を踏むほうが、本人にとっても家族にとっても納得しやすいと思います。

70歳・75歳からの更新で何が要るか

70〜74歳:高齢者講習(2時間)

更新期間が満了する日の年齢が70歳以上の方は、更新前に高齢者講習を受けます。普通自動車に対応する免許なら、座学・運転適性検査(60分)と実車(60分)の2時間で、手数料は6,600円(原付などだけの免許なら1時間・2,950円)。更新期間満了日(誕生日の1か月後)の6か月前から受けられ、終了証明書が更新に必要です(警視庁の案内。手数料は道路交通法施行令の標準額で、全国ほぼ共通です)。

75歳以上:認知機能検査+高齢者講習

更新期間が満了する日の年齢が75歳以上の方は、高齢者講習に加えて認知機能検査を受けます。内容は「手がかり再生」(記憶力)と「時間の見当識」(時間の感覚)の2つで、更新期間満了日の6か月前から受けられます。手数料は警察施設で受ける場合1,050円(教習所で受ける場合は施設ごとに異なる)。検査・講習のお知らせは、遅くとも満了日の6か月前には、はがきで届きます(警視庁)。

検査で「認知症のおそれがある」と判定されると、公安委員会から連絡があり、医師の診断(臨時適性検査または診断書の提出)を受けることになります。ここで認知症と診断された場合は、聴聞などの手続きを経て、免許の取消しまたは停止になります。逆にいうと、検査の結果だけで免許がなくなるわけではなく、医師の診断がはさまる、というのが仕組みです。

75歳以上で違反歴がある人:運転技能検査(合格しないと更新できない)

2022年5月13日からは、75歳以上で、免許の有効期間満了日の直前の誕生日の160日前を基準に、その前3年間に信号無視・通行区分違反・速度超過・横断歩行者等妨害・安全運転義務違反・携帯電話使用など一定の違反があった方は、実際にコースで普通自動車を運転する運転技能検査を受けます。100点からの減点方式で、第一種免許は70点以上が合格。不合格でも、更新期間満了日までであれば繰り返し受検できます。ただし受検のたびに手数料がかかり、期日までに合格できないと更新を受けられません。免許が失効したあとなどに取り直す場合も、一定の違反歴がある方が試験の一部免除を受けるには、運転技能検査への合格が必要です。手数料は実施する施設で異なります。

75歳以上の方の場合、認知機能検査・高齢者講習・運転技能検査(対象者のみ)の受ける順番は自由です(警視庁)。実施場所によっては予約が取りにくいので、はがきが届いたら早めに予約するのが現実的な対策です。

「続けたいが心配」なら、サポートカー限定免許

2022年5月13日の改正で、申請により、安全運転支援装置がついた普通自動車(サポートカー)に限って運転できるという条件を免許につけられるようになりました。対象になる装置は次の2つです。

  • 衝突被害軽減ブレーキ(対車両・対歩行者):前方の車や歩行者を検知して警報し、衝突の可能性が高いときは自動でブレーキがかかる
  • ペダル踏み間違い時加速抑制装置:発進時やごく低速のときにブレーキと間違えてアクセルを踏み込んでも、エンジン出力を抑えて急加速を防ぐ

対象になる要件は、装置の認定区分や車種によって異なります。衝突被害軽減ブレーキが道路運送車両の保安基準に適合している車はそれだけで対象になり、そうでない場合は2つの装置がそろって性能認定を受けている必要があります。MT車(マニュアル車)は、衝突被害軽減ブレーキが保安基準に適合するか性能認定を受けていれば、ペダル踏み間違い時加速抑制装置は不要です。後付けの装置は対象になりません。また、これらの装置は天候や速度などの条件によって適切に作動しない場合があり、自動運転ではありません。警察庁も「技術を過信せずに運転を」と案内しています。

自分の車が対象かどうかは、自動車検査証(車検証)の車台番号と、警察庁が公開しているメーカー別の対象車両リストを照らし合わせて確認します。申請は免許の更新と同時にでき、対象は普通免許です(上位の免許を持っている方は一部取消しが必要になるので、公安委員会に確認)。注意点として、限定をつけたあとにサポートカー以外の普通自動車を運転すると免許条件違反になります。

「返納するほどではないが、家族が心配している」という場面で、本人の運転の自由を残しつつ事故の型を減らす、いわば中間の選択肢です。

返すとき:手続きと「運転経歴証明書」

どこで、どうやって

自主返納は、各都道府県警察の運転免許センター(試験場)や警察署でできます。免許の停止・取消しの処分中の方や、処分の基準に該当する方は返納できません。東京都の場合、返納と同時に運転経歴証明書を申請するなら、運転免許試験場(府中・鮫洲・江東)では即日交付、更新センターや警察署では2週間ほどかかります。

運転経歴証明書とは

返納した方、または更新せずに失効した方が申請できる証明書で、返納・失効から5年以内なら申請できます(5年を過ぎた方、違反で取り消された方は不可)。2012年4月1日以降に交付されたものは、運転免許証に代わる公的な本人確認書類として使えます。銀行や役所で「免許証はお持ちですか」と聞かれたときに困らないための、実用上いちばん大事な一枚です。

  • 手数料(東京都・2026年9月時点):運転経歴証明書のみ1,150円。マイナンバーカードに記録するマイナ経歴証明書のみなら900円、両方なら1,250円。マイナ経歴証明書は2025年3月24日から申請できるようになりました(有効なマイナンバーカードが必要)。
  • 持ち物:免許証(またはマイナ免許証)と申請用の写真1枚(試験場なら撮影も可)。返納から時間がたってから申請する場合は、住所・氏名・生年月日が確認できるもの(住民票の写し、マイナンバーカード、旅券など)と、返納時の取消通知書(持っている場合)。
  • 代理申請:本人が窓口に行くことが困難な場合に限って、家族などが委任状と代理人の本人確認書類を持って申請できます。

手数料や受付場所、即日交付かどうかは都道府県警察で違います。上の数字は東京都(警視庁)の案内です。

証明書を見せると受けられる支援

運転経歴証明書(またはマイナ経歴証明書)を提示すると、自治体や協力企業の特典を受けられる地域があります。東京都では「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」の加盟企業・団体が、銀行の定期預金の金利優遇、デパートやスーパーの配送料無料、タクシー料金の割引、メガネ・補聴器の割引など約20分野の特典を用意しています(原則65歳以上が対象。失効後5年以内の方も対象)。ただし特典は予告なく変わることがあり、他の割引との併用ができないことも多いので、使う前に各店舗へ確認が前提です。

市区町村が独自に、返納者へバスやタクシーの回数券・乗車券を出している地域もあります。こちらは自治体ごとに内容・年齢・申請期限が違うので、お住まいの市区町村の高齢者福祉か交通の担当課に「免許を返納した人への支援はありますか」と聞くのが確実です。

車がなくなってからの移動手段——先に「道具箱」を用意する

返納で後悔する人の多くは、返納そのものではなく、「行きたい所に行けなくなった」ことを悔やんでいます。だから、返す前に代わりの手段を並べておくのが順番です。国土交通省は「高齢者の移動手段を確保するためのパンフレット」で、次のような手段を紹介しています。

手段どういうものどこで調べる
路線バス・コミュニティバス市区町村が運行に関わる小型バス。停留所が細かく、運賃が安いことが多い市区町村の交通担当課・広報
乗合タクシー・デマンド交通予約に応じて走るタクシーや小型車。決まった路線がなく、自宅近くまで来る型もある市区町村の交通担当課
福祉有償運送・自家用有償旅客運送NPOなどが、要介護の方や体の不自由な方を対象に、登録のうえ実費程度で送迎するもの市区町村・地域包括支援センター
介護保険の「通院等乗降介助」要介護1以上の方が、訪問介護の一部として、通院時の乗車・降車などの介助を受けられる(いわゆる介護タクシーの一部)。ケアプランへの位置づけが必要で、車両の運賃は介護保険の対象外(別途自己負担)。要支援の方は対象外担当のケアマネジャー
許可・登録がいらない互助の送迎地域のボランティアや住民どうしの助け合いで、ガソリン代程度の負担で送迎するもの。道路運送法の許可・登録を要しない範囲で行われる社会福祉協議会・地域包括支援センター

「うちの地域には何があるか」は、地域包括支援センターに聞くのがいちばん早い方法です。介護保険の認定を受けていない方でも相談できます(要介護認定の申請から結果まで)。

電動車いす(シニアカー)は「歩行者」

ハンドルつきの電動車いす、いわゆるシニアカーは、道路交通法上は歩行者の扱いで、免許はいりません。基準は、長さ120cm・幅70cm・高さ120cm以下、時速6kmを超える速度が出ないこと。歩道のある道路では歩道を、歩道のない道路では右側を通ります。免許を返したあとの「近所の買い物」の足として使う方が増えていますが、車道に出てしまう事故や、坂道・段差での転倒が起きています。警察庁が利用者向けの「安全利用の手引き」を出しているので、使い始める前に一読をおすすめします。

家族が切り出すとき——「返せ」より先にやること

  1. 危ないと感じた場面を、具体的に共有する。「最近あぶない」ではなく、「先週、駐車場でポールにこすった」「右折で対向車に気づくのが遅れた」と事実で話す。
  2. 更新時の検査を一緒に確認する。認知機能検査や高齢者講習の結果は、本人の状態を知る客観的な材料になります。運転技能検査の対象になる違反があったかどうかも、話のきっかけになります。
  3. いきなり返納ではなく、サポートカー限定免許や「夜は運転しない」「高速に乗らない」といった段階を提案する。本人が決めた形にするほうが続きます。
  4. 返すなら、移動手段を先に用意してから。上の表を本人と一緒に埋めて、「通院は乗合タクシー」「買い物は宅配と週1回の同乗」のように、行き先ごとに決めておく。
  5. 認知症が疑われるときは、免許の話と切り離して医師に相談する。免許の可否は最終的に医師の診断と公安委員会の判断で決まります。家族が説得する役を背負いすぎないほうが、関係がこじれません。

「運転をやめること」は、体の衰えを認めることと重なるので、本人には想像以上に重い話です。だからこそ、返納の是非より先に「返しても行ける」を用意する。それが、この話をいちばん穏やかに進める方法だと思います。

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出典

この記事は警察庁・警視庁・国土交通省などの公開資料をもとにした一般的な情報です。講習・検査・証明書の手数料や受付場所、即日交付の可否は都道府県警察によって異なり、記事中の金額は東京都(警視庁)の案内です。返納者への支援や移動手段は市区町村ごとに内容が違うので、お住まいの自治体と地域包括支援センターでご確認ください。運転を続けるかどうかに体調や認知の不安が関わるときは、医師に相談してください。